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アナタのトリコ
第2話
text 詩絵リイ南 / Illust フェレ

 住宅街から遠く外れた小高い丘にポツンと建つ一軒の大きな屋敷。その屋敷の前に青唯は立っていた。片方の手には地図が書かれた紙を、もう片方の手には大きめのスポーツバックを。その後ろ姿は言いようの無い寂しさ…いや、哀愁さえ漂わせている。

 大きな門の向こうに見える洋館風のその屋敷は、一見すると大変立派なものだ。

 しかしよく見ると、屋根や壁などが途中から色違いになっていたり材質が変わっている。壊れた部分を突貫工事で直した跡があちらこちらに見られ、何だか気色悪い外観だ。

 青唯はゴクリと生唾を呑むと、門の脇に置かれた少し錆びた鉄製の看板に目を移す。手渡された地図と照らし合わせ、そこに書かれた文字に間違いがないか一語ずつ声に出して確認し始めた。

「防衛庁公認・技術研究本部・第一研究所(都ヶ依出張所)」

 青唯は看板から屋敷へもう一度視線を移すと、持っていたスポーツバッグを落とし冷や汗混じりに家を眺めた。

「やっぱココだ…爆弾一家…都ヶ依家」

 青唯の両親は出発する間際に、この辺では誰もが知り誰もが恐れる有名な危険一家・都ヶ依家の元へ行けと地図を渡し、仲良くアフリカの地へ旅立った。

 無責任にも程がある。自分の息子がどうなっても良いのだろうか?

 青唯は遥か上空を行く飛行機を見上げ叫んだ。

「どんだけ交友関係広いんだぁーっっっ!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁー!」

 叫んだところで現状が変わる訳でもないのに、叫んでしまった自分のアホさ加減に落ち込み、青唯は一つ溜息をつき肩を落とす。

「防衛庁公認って…爆弾作っていい一般民家の出張所なんて聞いたことねーよ…」

 帰りたいけど帰る場所はもう無い。世話になれるのは都ヶ依家のみ。

 青唯は諦めてインターホンに指を置いた。

 青唯の胸元に鈍く光る、古いオモチャの指輪付きネックレス。

 「このきったね〜オモチャの指輪が何の目印…」

 謎だらけのその指輪を見てつぶやきながら、青唯がインターホンを押すと、



…………ちゅどぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ーん!




「どぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっっっっっ!?」

 その凄まじい爆音と爆風に青唯は驚き腰を抜かし仰向けに倒れ込んだ。向かって右側の屋敷二階部分が突然爆発したのだ。

「なっ何だ!?」

 狼狽える青唯の視界に飛び込む太陽の光に目を細めると、その光の中から何かが現れ青唯めがけて降ってきた。

「わわわわわわわわわっっっ!!!」

 青唯は逃げようとジタバタするが、腰が抜けて起き上がれない。半泣き状態でみるみる大きくなる落下物を直視し叫ぶしかなかった。

「ヤダあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」

 勿論、落下物は見事青唯の腹に着地。

「うぐぇ!」

 意識が朦朧とする青唯の腹に落ちてきたのは女の子。正座が少し崩れた形で座り込み、焦げてしまった服装で一息に口から煙を吐いてススで曇った目元こすっている。

 青唯は女の子に泡を吹きそうな苦しみ顔で告げる。

「どいでぇ〜」

 その声に自分が青唯の上に着地してしまった事にやっと気付いた女の子は、慌てて青唯の腹から下りた。

「あはっ♪ごめんなさい♪」

 笑顔で自分の頭をコツンと叩く姿に、何やら自分の母と似たイキモノを見てしまったと、青唯の額から嫌な汗が流れる。

 が…しかし…母とは違い、若くて…、

「めちゃめちゃ可愛い…」

 真っ黒に焦げていても分かるほどの完璧なスタイル、短めセミロングで少し天パぎみのふんわりした栗色の髪が頬にかかり、その姿は一段と、

「可愛い…」

 女の子は、ほんのり頬を染めて自分を見つめる青唯の胸元に指輪を見つけると、その指輪に見覚えがあるのか、期待に胸を膨らませ確かめるように顔を近づけた。

 急に近づき指輪を見る女の子のはち切れんばかりの胸元に、青唯は鼻の下を伸ばし見入っている。

「ぁ…あのっ」

 指輪について何か聞きたそうに声を掛けてきた女の子に、青唯はハッと我に返る。目の前にいるのはグラビアアイドルでも普通の女の子でもない、爆発と一緒に空から飛んでくるような危険な家の関係者なのだ。こんな爆発が度々あったら命がいくつあっても足りない。

 青唯は伸びた鼻の下を元に戻そうと首を横に振り正気に戻る。

「ヤっ…ヤベっ、血迷った」

 女の子は指輪を指差し青唯を見つめる。

「この指輪…」

「これっ…は、親に目印だって持たされて、何の目印か分かんねーけど、えと」

 女の子の目の輝きは次第に増していき、まさかという期待に胸元で両手を祈るように組んだ。

「青唯…ちゃん?」

「……」

 見ず知らずの人、しかもこの研究所の関係者が自分の名前を呼んだ事に驚き、青唯は後ろを向くと小声で一人芝居を始める。

「何で俺の事知っていんだっ…とにかくっ、こんな家ゴメンだっっっ」

 震える手でポケットから財布を出すと、有り金すべてを道端に出した。



 有り金427円。



 青唯は余りに残酷な現状に、虐げられた姫様のように地に伏して泣くしかなかった。

 女の子は自分の指にはめている青唯と同じオモチャの指輪を見ると、地に伏して泣く青唯の背中に覆いかぶさるようにして抱き付く。

「やっと迎えに来てくれた」

「んがっ!?」

 その勢いにまたしても押しつぶされた青唯だが、何やら背中の柔らかい感触に再び鼻の下を伸ばし、しかし直ぐに正気に戻るとしいう忙しいリアクションを取り続けた。

「青唯ちゃんっ♪幸せになろうね♪」

 女の子の言葉にまたまた正気に戻ると、女の子もろとも勢い良く起き上がった。

「幸せにって…」

 女の子は指にはめているメッキの剥がれた古いオモチャの指輪を青唯に見せると、最高の笑顔で改めて青唯に自己紹介をする。

「婚約者の、都ヶ依ウサギです♪」

「ぇ…」

 聞き覚えのあるその名前。

 この研究所には自分と同じ歳の一人娘がいて、将来研究所を継ぐ為に専門知識を早くから学べる他の私立高校に通っているという噂を耳にした事を思い出した。

「都ヶ依家の爆弾娘!?」

 青唯は慌てて自分の指輪を手に取り、ウサギの指輪と見比べ同じモノなのかを確認した。

「目印って…こういう…事…?」

 笑顔でこの指輪を渡し旅立っていった両親が、目の前の現実が憎い。

 やり場の無い怒りに青唯は空に向かって泣き叫んだ。

「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」




  (つづく)  


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