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アナタのトリコ
第3話
text 詩絵リイ南 / Illust フェレ

 翌朝、ウサギと青唯はぴったりと寄り添い腕を組んで学校へと向かっていた。

 青唯はウサギのたわわな胸の感触にデレデレと、かと思えばウサギが腰元に提げたシザーバッグから覗く護身用の小さな爆弾に昨日の恐怖を思い出し、ブンブンと顔を横に振り青ざめてみたりしている。朝から忙しい男だ。

 するとそこへ、鞄を振り回しながら2人に向かって走り近づいてくる人物が。

 その人物は青唯の頭めがけ、持っていた鞄で後ろから思い切り殴り飛ばした。

「んごぉ!?」

 ふいをつかれた青唯は勢いよくアスファルトに顔面着地。

 突然青唯が宙を舞い顔面から着地をした姿に驚き、ウサギは青唯の元に駆け寄りしゃがみ込んだ。

「青唯ちゃんっっっ!?」

「ぃ…って〜…」

 青唯は顔面を押さえ胡座をかいて上半身を起こすと、威勢よく自分を殴った人物がいるだろう方向に叫んだ。

「誰だ!!!」

 叫んだ先には細い足が二本。青唯はゆっくり上を向くと、そこには仁王立ちで怒りに震える幼なじみの暴力女、青唯と同い年の黒ノ芽アンナの姿があった。

「アンナっ!?」

 アンナは持っている鞄を強く握り、怒りに震える自分を押さえながら青唯に問う。

「何で…爆弾娘と一緒なのよ」

 アンナは怒ると手が付けられない事を知る青唯は、震える程に怒りが増して行く状況に怯えているのだが、ウサギにはその空気を読む事が出来ないのかキョトンとした顔で青唯に質問した。

「青唯ちゃん、この人誰?」

「あっあっあっ青唯ちゃん!?ちゃんっ!?」

 まるで以前から青唯の事を知っているかのように「ちゃん」付けで呼ぶウサギに、アンナは嫉妬心丸出しで自分を紹介し始めた。

「青唯の面倒をずっと見てやってる、幼なじみの黒ノ芽アンナよ!」

「青唯ちゃんと…ずっと一緒」

「そうよっ、アンタと違って何でも知ってるんだからっ」

 どうだ!と言わんばかりに自分と青唯の仲をアピールしてくるアンナに、ウサギはみるみる伏し目になり目を潤ませる。

 アンナはそんなウサギの様子を見て勝てると確信したのか、自分優勢の今の空気を利用しようと攻めの態勢で問いただす。

「大体っ、なんでアンタが青唯とベタベタベタベタくっついているのよっ」

 するとウサギはポロポロと涙を流して震える声で応えた。

「ウサギは青唯ちゃんの婚約者です」

 アンナはウサギの言葉にカウンターパンチをくらい、頭の中を「婚約者」という単語が渦を巻いて駆け巡った。

「こんやくしゃ…婚約者って…あの」

 アンナは放心状態、ウサギは肩を揺らして本格的に泣き出した。

「ウサギは婚約者なのに、青唯ちゃんのこと何にもしらない」

 そんな状況を登校中の学生や通勤中の会社員にヒソヒソ話をされ、仕舞いには歩いてきた小学校低学年くらいの小さな男の子に、

「やるな、兄ちゃん」

 と、ほくそ笑みながら言われ、青唯はさすがに気まずくなりその場を取りつくろい始めた。

「2人とも、ちょっ、アンナぁー戻ってこぉーい。あーあーあーウサギちゃん泣かないでぇ〜」

 アンナは、肩を揺らして泣くウサギを心配している青唯の様子に反応し、青唯の肩を持って自分へと方向転換すると、胸ぐらを掴んで激しく前後に振りまくった。

「爆弾娘が婚約者って何!?どんな趣味してんの!?16年間アンタの世話をしてきた私に黙って何やってんのよ!

 アンナの暴走に窒息しそうになり、青唯は涙を振りまきながら弁解をする。

「おぉっ、お前が怒るのも分かるけどっ、俺だって何がなんだか〜!」

 すると青唯の言葉にアンナの動きがピタッと止まる。

「お前が怒るのも分かるって…何よ」

 青唯は急に頬を赤らめ照れたように体をくねらせ答える。

「え〜♪いくら俺が鈍感でもなぁ〜、お前が俺の事好きだって事くらい〜」

「す…き…」

 アンナは耳まで真っ赤にして青唯の胸ぐらを掴んでいた手を離すと、慌てて否定しはじめた。

「はっ、はぁー!?アンタみたいなクソのカスのプ〜なんか、好きなわけ無いでしょっ!」

「ぇ、だって、誕生日には必ずケーキ焼いてくれるじゃん」

「あーっあれはっっっ、ついでよっ、」

 真っ赤になって弁解するアンナを青唯はイヤらしい横目で見ると、人差し指でアンナの肩を柔らかく突く。

「何のついでだよ〜♪」

「うるさぁーいっ!だったら仮によ!仮にっ、私が…だったりとかしたらっ、爆弾娘との婚約無かった事に出来るっ?」

「それはぁー…」

 青唯はウサギの真っ赤に腫れた目とたわわな胸を見ると即答出来ずに言葉を濁す。

 アンナはウサギの胸と自分の貧しい胸をありありと見比べて答えを出そうとしない青唯の様子に気付くと、思い切り頬をひっぱたいた。

「このまま爆弾娘と一緒にいて命があったら誉めてあげるわっ、勝手にしなさいよ、バカ!」

 アンナの怒りは頂点に達し、青唯に言葉を吐くと地響きが起るほどの勢いで歩いて行ってしまった。

 青唯は殴られた頬をさすりながらアンナを呼び止めようとする。

「ちょっ、待てよアンナぁー」

 アンナが自分で青唯を好きではないと言ったのに、何故怒って行ってしまうのかウサギには理解出来ず、青唯の袖を両手で少しだけ掴んで問う。

「ウサギ、何か悪いことをしちゃったの?アンナさん凄く怒ってた」

 青唯は上目使いに潤んだ瞳で自分を見つめるウサギに、またも気持ちが揺らぎ話す言葉も相当上ずる。

「ぃい〜つもの事だから、気にしなくていいよ、ははっ」

 自分を気遣ってくれる青唯の言葉に安堵したのか、ウサギは柔らかな笑みを見せると涙を拭いながら頷いた。

 青唯は一難去った安堵から大きくため息をつくと腕時計を見る。

「急がないと遅刻しちゃうね、行こうか」

「うん」

 こうして青唯が安堵した矢先だった。

 猛スピードで走ってきた“アリスの宅急便”と書かれたメルヘンチックな車が青唯たちの直ぐ横で急ブレーキをかけると、その車の外装とはかけ離れたスカジャンを羽織った2人組のチンピラが下りてきた。

 青唯は弱いながらもウサギを自分の後方に隠して庇う。

「なっ…なんすかっ」

 するとチンピラの1人がザツな言葉使いで青唯に問う。

「おめぇー、アオイって奴か?」

 意外だった。

 青唯は知らなくても相手は青唯を知っている、という人物がウサギ以外にもいたとは。しかも今度の相手はチンピラだ。まさか旅立った両親がまだ何か置き土産をしていったのだろうか?とにかく自分は関係ないんだという事を言わなければと、青唯は勇気を振り絞ってチンピラの問いに答える。

「だったらっ、なん、」

 青唯である事が確認できると話しが途中であるにも関わらず、もう1人のチンピラが数本抜けた前歯を見せて笑い、恐怖で後退さる青唯の肩を強引に引き寄せミゾオチに一発食らわせた。

「ぐはっ!?」

 まともにくらった青唯は一瞬で意識を失い、白目をむいてチンピラの手の中に力なく倒れ込んでしまった。

「青唯ちゃんっっっ!」

 驚いたウサギは咄嗟に青唯の袖を掴み引っ張るが、チンピラがその手を叩き払い容赦なく後ろへ突き飛ばす。

「きゃっ!」

 壁に背中を打ち付け座り込んだウサギを尻目に、2人のチンピラは青唯を車に放り込み急発進でその場を後にした。

「青唯ちゃん!青唯ちゃん!!!」

 ウサギは痛む背中を押さえ慌てて起き上がると、青唯の名前を叫びながら車を追った。だが人の足ではとても追いつけない。

 ウサギよりも先を歩いていたアンナの耳に、必死に青唯の名前を呼ぶウサギの声が聞こえてきた為振り返ると同時に、アンナの横を猛スピードで車が走り去る。

「危ないでしょ!?ぐぅおらあぁぁぁぁっっっ!」

 怒りが治まっていないアンナは車に向かって叫び散らす。

 そんなアンナの元へウサギは泣きながら必死に走って来ると、アンナに思い切り抱きつく。

「ちょっ!何よっっっ!?」

 ウサギは突然起きた出来事にどうすればいいのか分からず、上手く出す事の出来ない震える声でアンナに告げた。

「青唯ちゃんがっ、青唯ちゃんが連れて行かれちゃった」

「はぁ?」

「男の人達が青唯ちゃんをっ」

 アンナは先程まで青唯と言い争っていた場所を見るが、確かに青唯の姿はない。そして今、自分の横を猛スピードで走っていった車の事を思い出しウサギを自分から離し問う。

「まさか…っ、今の車!?」

 ウサギは泣きながら頷くばかりだ。

「どうしよう…どうしよう…っ」

「どうして青唯が…っ?」

 アンナは反対側の道路脇にエンジンをかけたまま止めてある400CCバイクを見つけると、泣いてるウサギの腕を掴んで走り出した。

 バイクの持ち主の青年は自販機の前で鼻歌を歌いながらジュースを選んでいる。

 アンナはその青年に駆け寄ると、自分とウサギの鞄を青年の胸元に叩き付けるように渡した。

「ぐほっ」

「これ預かって!それとバイク借りるから!」

「ぇ」

「ヘルメット!」

「ぁ、はい!」

 ヘルメットをアンナに渡し何故か鞄を抱えている青年は、何が起っているのか把握出来ず、自分のバイクに乗り込んでいる2人の女子高生を呆然と見るばかりだった。

 アンナはバイクに乗り込むと立ち尽くしているウサギに一喝。

「しっかりして!」

 狼狽えていたウサギはアンナに一喝された事で自分を取り戻し、制服の袖で荒っぽく涙を拭いた。

 アンナはウサギにヘルメットを投げ渡す。

「車の特徴、ナンバー、犯人の顔、覚えてるよねっ?」

「うんっ」

「乗って」

 ウサギは渡されたヘルメットを被ってバイクの後ろに乗り込んだ。

 青唯が持つ携帯電話に犯人が気付いていなければ、その電波を頼りに追えるかもしれない。アンナは自分の携帯電話をスカートのポケットから出すと、GPSへと画面を切り替えウサギに渡す。

「道案内任せたからね」

「はい!」

 アンナとウサギが乗ったバイクは、誘拐された青唯を助け出すべく勢い良く走り出した。 




  (つづく)  


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