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アナタのトリコ
第4話
text 詩絵リイ南 / Illust フェレ 外伝剣 HIGURUMA




 少しザラつく左頬がひんやりとしている…古びた匂いが鼻につくこの空気は一体なんだ。

「ん…ぅ…」

 うっすらと開けた青唯の目に映るのは、四角く切り取られた光とその周りの暗闇。

「何処だ…ココ…」

 目が暗闇に慣れてくると周りの様子が少しずつ分かってきた。光の先には青空と船と海。暗闇の中には沢山の段ボールや木箱が積まれ、天井に設置された巨大クレーンやフォークリフトが無造作に放置されている。

「港の倉庫…痛っ…そうか…俺殴られて気失って」

 ミゾオチ付近の打撲痛によって、自分が気を失うまでの記憶がよみがえる。

 青唯は自由にならない両手両足を確認する為、首だけを起こし自分の体を見る。後ろ手に縛られた両腕はクレーンの鉄骨に、両足もロープでキツく縛られ同じく鉄骨にくくりつけられ更に手錠が掛けられていた。

「嘘だろ〜…」

 この数日間で様々な出来事に遭遇している青唯のうんざりとした声に、3メートル程離れた場所で木箱に座り、パンをかじっていた下っ端のチンピラが気付き歩み寄って来た。

「よく眠れたか?小僧」

「…あの…なんで俺誘拐されたんすか?」

 すると下っ端が拳で青唯の顎をグリグリと押し上げながら、得意気に説明し始めた。

「てめぇの親父さんの会社に恨みがあるって奴らに頼まれてなぁ〜。デカイ報酬と引き換えなんだよ。社長の息子ってのも大変だなぁ」

 社長の息子とは?下っ端の話に青唯が納得のいく理由など一つも見あたらない。それどころか言ってる意味が全く分からなかった。

「いや…俺社長の息子じゃ無くて、部長だった親父の息子なんすけど」

 青唯の予想だにしない言葉にチンピラの兄貴分はテーブル代わりにしていた木箱を思い切り蹴飛ばすと、両手をポケットに突っ込み品の悪いガニ股歩きで青唯に近寄る。

「部長だぁ〜?」

「いえっ“だった”です。もう辞めちゃったんで」

 兄貴分は青唯の胸元を掴むと互いの鼻の頭が触れるくらいの至近距離で話し出した。

 青唯は何をされるか分からない恐怖に、必死で顔を遠ざけようと顎を引いた。

「名前聞いた時確かに“アオイ”だっつたよなぁ?」

「はいぃ…っ」

「だったら親父は社長だろぅ?」

「いっ…いいえ〜っ」

「社長だろがっ!」

「ひぃぃぃぃ〜っ!?」

 兄貴分のこめかみには怒りで血管が浮き上がり、苛つきながら青唯を締め上げ始めた。

「何で親父が社長じゃねぇんだっ!」

「にっ、二丁目に俺と同じ名前の社長の息子がぁ、ぐるじぃ〜」

「なんだとゅー!?」

「俺は一丁目なんでっ、関係ないんで!誘拐し直してぇぇぇー!」

「兄貴!もう直ぐ奴らとの取引きの時間ですぜ!?」

「今直ぐ親父を社長にしろおぅ!」

「ぞんな無ぢゃなあ゛〜」

 チンピラと青唯が悶着していると、ダーク系スーツを身につけた数十人の男達が倉庫入り口に姿を現した。





「アンナさん!あの車!」

 GPSを頼りに港倉庫に辿り着いたアンナとウサギは、誘拐犯が乗っていた車を発見しバイクを止めた。

「青唯ちゃん…っ」

 先にバイクから下りたウサギが車の中を覗くが青唯の姿は無い。しかし後部座席の下に落ている携帯を見つけた。

 ウサギの背後から窓を覗いたアンナも携帯を見つけ、青唯の物であるか確かめるためドアを開けようとするが、

「ダメだっ、こっちもダメっ」

 携帯を取ろうにも全てのドアがロックされていて開かない。

「そうだ」

 ウサギはシザーバックから直径2センチ程のカプセル型超小型爆弾を取り出すと、ヘアピンに挟んでそのヘアピンをドアの鍵穴に差し込んだ。

「爆弾娘?」

「これで開くかもしれない」

 ウサギはカプセルの両端を持ちカチッと音をさせて回すと、アンナの手を引っぱり直ぐ近くに止めたバイクの後ろへ回った。

「何っ?何々爆発すんのっ!?」

「はい。ちょっとだけ」

 すると車のドアをハンマーで叩くような鈍い音と同時に、ドア自体が外れずに良く耐えたなというくらい大きな穴が空いた。

「どこがちょっとなのよ!!」

 するとウサギは大きく空いた穴の前に座り、穴を指差し真面目に答えた。

「この穴の加減がです」

 アンナは大真面目な顔で珍妙な回答をするウサギに唖然とするが、話しが噛み合ないからと呆れている時間はない。気を取り直して空いた穴から携帯を取り出した。

「間違いない、青唯のだ」

 二人が青唯の存在を確認し、沢山の倉庫が立ち並ぶ港を片っ端から探す為に走り出そうとした時だ。

 海側の倉庫の影から数十人の男達の集団が二人の方に向かって歩いてくる。

「何…あの集団」

 徐々に近づいてくるその集団に目を凝らすと、ウサギがある事に気付く。

「青唯ちゃんを連れ去った人達が…男の人に引きずられてる」

「ぇ…」

 アンナはその光景に目を疑った。

 青唯を連れ去ったというチンピラ二人の顔は酷く腫れ上がり、完全に意識を失い人形のように引きずられていたのだ。

 とんでもない奴らを相手にしなくてはならないのだと、アンナとウサギは恐怖に震える自分を奮い立たせようと互いの手を握りしめ、集団に向かって歩き出した。

 反対側から歩いてきた集団の長は自分達に向かって歩いてくる女子高生の姿に驚くが、その事態を楽しむように口の端で笑い集団を止めた。

「ほぉ…」

 アンナは集団から5メートル程のところで止まると、震える手をキツく握り声を張り上げた。

「青唯は何処!」

「青唯…?あぁ、このチンピラどもが間違えてさらってきた男子高校生の事か。あの子なら海側の倉庫に居ますよ。勿論無事です」

 青唯が無事である事を聞き、二人は安堵して胸元を押さえ大きく息を吐いた。

 その様子に長は悪魔のような笑みを浮かべると、楽しそうに告げた。

「無事ですよ…今はまだ。彼はあと少しで…ククっ…死んじゃうよ」

 長の言葉に二人は天国から地獄へと突き落とされる。アンナの顔からは血の気が引き、ウサギの体は再び震えに襲われた。青唯の命が…それは最悪の事態。

「青唯ちゃんは関係ないのに…それなのに…」

「彼は私達の顔を見てしまった…そして…アナタ達も」

 十数人の男達はあっという間に二人を囲むと、胸元から拳銃を取り出し銃口を向けた。

「拳銃は使うな。この子達とはじっくり遊んであげなくては。対女子高生なんて滅多に見られない貴重なショーだ。ゆっくりと見物させてもらうよ」

 二人は背中合わせになり、アンナはゆっくり呼吸を整え右半身を前に出し合気の構えを、ウサギはシザーバックの中にある護身用の小爆弾を握り締めた。

「青唯を救い出せるのは」

「青唯ちゃんを救い出せるのは」



 私達しかいない!!!



 とにかく男達に囲まれたこの状況から抜け出さなくては。

「ウサギ!」

「はいっ!」

 アンナの合図でウサギは握っていた小爆弾のピンを抜き、空に向かって思い切り投げた。小爆弾は間もなく頭上で爆発。

「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 その爆発に驚いた男達の気が散漫になった隙を狙い、二人は互いの正面の相手に向かって思い切り体当たりでぶつかっていった。不意打ちをくらった男は見事に背中から倒れ込み、二人は囲まれた円の中から何とか脱出する。

「なにっ!?」

 この状況に一番驚いたのは高みの見物をしている長だった。一人の女子高生は爆発物を所持し、更にもう一人の女子高生は舞い踊るように軽やかに男達を投げ飛ばしていくではないか。

「なんだコイツらは!?」

 アンナは四方から容赦なく攻めてくる男達のバランスを失わせるため、振り上げられた右手を相手の勢いを利用し順番に払い退けた。

「小娘がぁー!」

 しかし先に右手を払った正面の男がバランスを崩したまま突進して来た為、アンナは急いでミゾオチあたりを狙い左拳を繰り出すが、ニヤリと笑う男の左手によって受け止められてしまう。

「この手握り潰してくれる!」

「うるさいっ!」

 男が左拳に気を集中している隙に、アンナは右手で相手の右手首を掴み内側へとひねり上げた。

「あぁ!?」

 すると男は痛みに仰け反り握っていたアンナの左拳を離す。

 アンナはチャンスとばかりに自由になった左手も使い、男の肘もろとも両手でひねり上げる。あまりの激痛に顔を歪めフラつく男を、後ろから来た男に押し付けまとめて退治。横から来た男には、合気と関係ないミゾオチ蹴りをお見舞いする。

「どりゃーっ!」

「ぐはっ!?」

 アンナは合気道初段の腕前だが、青唯との喧嘩で身に付いた蹴りがこんなところで合気同様役に立つとは、まんざら無駄ではないらしい。

 かたやウサギはというと、喧嘩なんてものには縁のない生活を送ってきた為、飛びかかってくる男達をどう退治したら良いのか分からないのだ。

「いやあぁぁぁ!」

 だから逃げる。

「こーなーいーでえぇぇぇぇ!」

 とにかく逃げる。そして追ってくる相手に小爆弾を投げまくる。

「うっうわあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 激しい爆音と共に四方八方へ飛んで行く男達。護身用の小爆弾で死にはしないが多少の怪我はするハズ。お気の毒に。

 そうこうしているうちに男達は全滅。高みの見物をしていた長は想定外の出来事に震え上がり逃げようとするが、勿論逃げる間もなくアンナの関節技につかまり、手首をひねり上げられそのまま壁に押し付けられた。

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!痛たたたたたたっ!」

「アンタ青唯に何したのっ?あと少しで死んじゃうってどういう事!」

「痛いぃぃ!爆弾を置いてきたんだっ」

「!?青唯は海側のどの倉庫にいるの!早く教えなさい!」

「第四…倉庫…っ」

 長が青唯の居場所を吐くと、アンナは掴んでいた手を突き離した。

「急ごうウサギ!」

「はいっ!」

 するとウサギは最後の小爆弾のピンを抜き、大好きな青唯を酷い目に合わせた長に向かって捨て台詞を吐きながら投げつけた。

「バカぁ!」


  (つづく)  


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