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アナタのトリコ
第5話
text 詩絵リイ南 / Illust フェレ


 第四倉庫に駆け込んだウサギとアンナは、口にはガムテープ両手両足はロープでキツく縛られ力なく横たわっている青唯の姿を見つける。自分でなんとか抜け出そうとしたのか、手首には血が滲んでいた。

「青唯ちゃん…っ!?」

「青唯!?」

 二人は青唯の元に駆け寄ると、アンナが口元のガムテープを剥ぎ取る。

「二人とも、どうしてココに…っ」

 まだ無事だった青唯の姿に安心したのか、アンナの目には涙が溢れ声を震わせながら必死にロープを解き始めた。

「アンタを助ける為に決まってるじゃない!バカ!」

「アンナ…」

 その横でウサギは、青唯の体にくくり付けられた鎖の先に施錠されている爆弾の解体を始めていた。

「昨日会ったばっかなのに…どうして」

「青唯ちゃんとは幼稚園の時一度だけ会ってるの…縁日でいじめられてたウサギを助けてくれて…それから、青唯ちゃん屋台でお揃いの指輪を買ってくれて」

「そんなの、俺…覚えて…」

「約束したの、大きくなったらお嫁さんにしてくれるって」

 その言葉にロープを解いていたアンナの手が止まる。

「ぇ…」

 自分の知らない青唯の姿…青唯とウサギの約束…青唯の全てを知っていると思っていたアンナはショックを受けるが、同時にウサギが青唯の事を一途に思い続けていた事実に心を打たれる。

 ウサギは爆弾解体作業の邪魔になる涙を制服の袖口で何度も拭い、声を絞り出して青唯に伝えた。

「だから、青唯ちゃんが居なくなっちゃうのはダメなのぉ…」

「ウサギちゃん…」

 再び硬く結ばれたロープを解き始めたアンナの指先は摩擦で擦れ、綺麗に整えられていた爪は所々欠けてしまっている。指先の痛みに耐えながら必死に青唯を助けようとするアンナの口からは、普段は絶対に言わない本音が出る。

「青唯がいなくなったら私だって困る…っ、嫌よそんなの!」

 アンナの言葉にどれだけ自分が想われていたのかを改めて感じた青唯は、初めて感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとな、アンナ」

 改めて青唯に感謝され、つい本音を言ってしまった事を後悔し、アンナの顔は恥ずかしさでみるみるうちに真っ赤になった。

「もうっ!お礼を言うのは助かってからにしてよっ!ぁ、取れた」

 背中で結ばれていた両手が自由になった青唯は即起き上がり、まだ上手く力が入らない自分の手で両足のロープを解き始めた。

「絶対、三人で帰ろう」

 青唯は笑顔で二人に言うと、泣いていたウサギとアンナの顔にも笑みがこぼれた。

「うん、絶対」

「はい♪」

 アンナは近くにあった大きなスコップを持つと、スコップの先で青唯の鎖を断ち切ろうと上から思い切り突き続けた。

 その間にもウサギの爆弾解体が着実に進められていたが、複雑な構造に手こずり残り時間が5分をきってしまう。実際に爆弾の解体をするのはコレが初めてのウサギは、自然と焦りが出て爆弾内部に落ちたら命取りにもなりかねない汗が流れてくる。

「あと少しなのに…どれなの、どの線…っ、どっち…っ」

 迫るタイムリミットに冷静ではいられなくなり、周りの声が聞こえなくなっているウサギに気付いた青唯は、ウサギが自分の声を拾うまで何度も優しいく声を掛けた。

「ウサギちゃん、ウサギちゃん」

 しばらくしてその声にやっと気付いたウサギは、どの配線を切るのか躊躇していた手を止め青唯へと視線を向けた。

「落ち着いて、大丈夫。ウサギちゃんなら余裕で出来ちゃうさ」

 青唯は制服の中からネックレスを出すと、そのネックレスについた指輪をウサギに見せた。

「俺が傍にいるじゃん」

 ウサギは左手の薬指にはめたお揃いの指輪を見ると、その指輪を右手で包み込み大きく深呼吸をした。

「青唯ちゃんがついていてくれる。青唯ちゃんが一緒にいてくれる」

 それから集中力の戻ったウサギは、再び躊躇することなく順調に配線を切り進め、

「出来たぁ…」

 デジタル表示された数字が残り30秒をきった時、爆弾の機能は完全に停止した。

 同時にアンナが持っていたスコップの先端がひしゃげ、鈍い音が倉庫に響き渡ると青唯の足に巻かれた鎖は見事に切断された。

「やったぁ…」

 青唯を拘束していたロープも、鎖も、爆弾も、全てを取り除く事が出来た安堵と激しい乱闘の疲れが出た為か、三人はその場にへたり込むように寝ころがった。

 青唯は今になって震え始めた手を握り締めると、倉庫中に響くくらいの大きな声で叫んだ。

「助かった…助かったぞーっっっ!!!」

 しかし豪快に喜んだのも束の間。見るのも痛々しい青唯の手首には血が滲み、その事を手首が思い出したように痛み走る。

「いってぇ〜…っ、くぅ…っ!」

 タイのボクサーのように構えて痛みを堪えている青唯に、ウサギとアンナは慌てて近寄るとそれぞれ持っていたハンカチをその手首にしっかり巻いた。

「空気に触れるから痛いのよ、青唯ちゃん」

「こうすれば少しはマシでしょ?」

 両腕に巻かれた可愛いハンカチを見て、青唯は照れながらも嬉しそうに笑ってみせる。温かい空気が三人を包み、穏やかな笑みが自然と溢れた。

 すると、そんな青唯の耳に微かにカチャッという金属音が聞こえてきた。

 青唯は音がした倉庫の入り口付近に目をやると、そこには爆弾を使って自分を消し証拠隠滅をはかろうとした黒幕・長が、拳銃を構え銃口を自分達に向けている姿が。

 ウサギとアンナは倉庫入り口に背を向けて座っているため、その事態に気付いていない。

 青唯は慌てて立ち上がると二人を庇う為に覆いかぶさった。

 長は狂気したように怒声を上げると、迷う事無く一気に拳銃の引き金を引いた。

「死ねぇ!クソガキども!!!」





「青唯ちゃん手首痛む?大丈夫?」

「大丈夫。心配ないよ」

 翌日、あの誘拐騒ぎなど無かったように青唯とウサギは仲良く登校していた。

 けれど本当に何も無かった訳ではない。

 手首の包帯を見ると、青唯は昨日の出来事を鮮明に思い出した。

 普段はお付きの人間が拳銃を持ち、自分では一度も撃った事がない長が放った弾は全て的外れに終わった。

 往生際の悪い長に堪忍袋の尾が切れてしまったアンナは、逃げる長を取っ捕まえて気絶するほど締め上げた。

 その後ウサギが警察に連絡しこの誘拐事件に関わった集団は皆逮捕され、ウサギとアンナは男子高校生を救った勇敢な女子高生として警察から表彰と金一封を受けとった。

「なんで俺には何も無い訳?金一封ぅ〜」

 ブスくれた顔でぶつぶつ文句を言っている青唯の顔を、ウサギが下から覗き込んだ。

「どうしたの青唯ちゃん?」

 爆弾娘と分かっていてもドアップで見るウサギの可愛いこと。

 青唯がウサギに見とれてデレデレ目尻を下げていると、お約束のようにアンナが現れ、後ろからとび蹴りを食らう。

「んがぁっ!?」

 青唯は3メートル程飛ばされ、またも顔面着地。顔の凹凸が無くなる日も近いだろう。

「青唯ちゃん!?」

 昨日に引き続き顔面着地をした青唯を心配し、ウサギが駆け寄ろうとすると、

「待って」

 アンナがウサギの手首を掴み引き止めた。

「爆弾娘とか、酷い事いっぱい言ってゴメンね」

「ううん…ウサギ全然気にしてないもの」

「あのね、私青唯の事が好き。だから、正々堂々あなたと勝負する事にしたの」

 ケガ人に対して顔面着地の仕打ちはないだろうと、青唯は鼻息荒く凄い勢いでアンナに近づく。

「アンナ!毎回毎回何なんだよお前はっっっ!!!」

 すると今度はウサギがシザーバッグから小爆弾を出し、向かってきた青唯の足下に転がした。

「ん?…え゛…っ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっっっ!?」 

 再び青唯は二人から遠ざかり一目散に逃げるが、アンナは逃げる青唯めがけてウサギが転がした小爆弾を蹴り飛ばした。

 遠くで「なんでぇぇぇ〜!?」と叫ぶ青唯の声がこだまする。やはり朝から忙しい男だ。

「ウサギも青唯ちゃんが好き。だからアンナさんには」

「アンナでいいよ」

「じゃーアンナ…ちゃん」

 呼び捨てに出来ないウサギは、“ちゃん“付けをしてもいい?と聞くようにアンナを上目使いに見た。

 そんなウサギの人の良さに、アンナは同じ歳にも関わらず妹のような可愛さを感じ苦笑いを浮かべる。

「いいよ“ちゃん”でも」

 アンナの了解を貰って嬉しそうに笑うと、ウサギは途中だった話しを再開させる。

「だから、アンナちゃんには負けない」

「私も負けないからね」

 青唯が好きで、青唯に対する思いは誰よりも強くて、青唯の命を助けた者同士、たった2日間で2人は互いの関係を深める事が出来たようだ。誰よりも青唯の事を分かり合える大切な親友。

 二人は手を繋ぎ、小爆弾で飛ばされ倒れ込んでいる青唯の元へ笑顔で走りだした。

「アンナちゃんは、どうして青唯ちゃんの事が好きなの?」

「多分ウサギと一緒。アイツ、弱いクセに強いのよ」

 二人が青唯の元に辿り着くと、青唯は朝から相当力を使い過ぎたのか、亀の甲羅でも背負っていそうなくらいダルそうに立ち上がった。

「あーあー、もぉ〜、だらしないわね〜」

「誰のせいだと思ってんだっっっ!」

「青唯ちゃん大丈夫?」

 心配そうな表情のウサギもこれまた可愛いと、青唯は鼻の下を伸ばしてウサギを見つめる。

「大丈夫だよ〜♪」

 ウサギにはあからさまに甘い声を出す青唯の頭を、アンナは目を覚ませと言わんばかりに叩く。

「バカ!」

 青唯が叩かれた頭をさすっていると、ウサギが突然腕を組んできた。

「え?」

 アンナも同様に腕を組むと、

「え?え?」

 青唯を後ろ向きのまま引きずり学校へと歩き始めた。

「えぇぇ!?ちょっ、こらっ、放せぇー!」

 この時青唯は改めて考えてみた。

 毎度家で爆発、外では小爆弾によって吹き飛ばされ命を危険にさらす毎日を、メチャメチャ可愛いウサギと過ごす方が幸せなのか。

 毎度暴力を振るわれても僅かに命の保証がある毎日を、ソコソコ可愛いアンナと過ごす方が幸せなのか。

「てかっ、やっぱ普通の女の子がいいっ!平穏がいい!平和がいぃぃ〜」

 青唯は滝のように涙を流し、空を見上げて叫んだ。

「神様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っっっ」




  (おわり)  


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