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エチュード
第2話
text ことばたらず / Illust Gh



 多田羅はなんともいえない気持ちになった。優から発しられた感情は、多田羅の胸に、

悲しみと暖かいナニかをとどけ、春風がふわりと吹きぬけたのだ。

(なんて素直な感情なんだ)

 気がつくと、多田羅は優を追いかッていた。レイカにずるずると引っ張られている優を、多田羅はガッとつかんだ。

「あのさ、僕たち芝居やってるんだ! きみ、才能あるよ! よかったらうちに入らないか!?」

 レイカの髪の毛が跳ね上がる。

「わたしたち、サッカー部に入るんで!」

「サッカー部? どうして!?」

「あんたには関係ないでしょ!!」

 だが、多田羅はあきらめない。レイカに、顔をずいと近づけると、力強い声でレイカに向かって言った。

「ボクには見えたんだ、この娘の感情が!」

「感情? あんたナニいってんの?! 優が役者なんてできるはずないじゃん!」

 そういうと、レイカは思いっきり優をひっっぱった。すると、手は離れ、多田羅はその場に倒れてしまった。多田羅は歯をくいしばり、優に向けていい放った。

「夕方6時、611教室でまってるから!」

 優の姿が消えるまで、多田羅はなんども叫んだ。そうしないと、彼女が消えてしまいそうな気がしたからだ。

 さっき感じた感情は確かなものだった。だが、今の優を見るとかげろうのように不確かなものに思えた。まるで違う人物を見ているかのように……。

 

 ガイダンスが終わり、優たちは校舎の階段を降りていた。レイカは先ほどのことがよほど頭にきたのか、プリプリと怒っている。

「今度会ったら、ヒールで踏んづけてやる!」

 優は、多田羅の言葉が頭から離れないでいた。まさか自分に役者の才能があるなんて……。いや、これはナニかの間違いだ、こんな暗い人間が、人前で演技なんてできるはずがない。と、優は自分にいい聞かせた。



 優とレイカが校舎をでると、校庭はクラブの勧誘席で埋め尽くされていた。

するととつぜん、レイカの携帯がなった。

「あ、もしもし高志? え、今から? 別にいいけど。うん、じゃあね♪」

 レイカは携帯をきると、彼氏からだと、優につげ、「先にサッカー部に入ってて」と、その場を去ってしまった。

 急に一人になってしまった優は、なんだか、

寂しい気持ちになった。この広い大学で、知り合いもなく、ただ、楽しそうに話す人々の中で……。



 優は、なんとなく、サッカー部の勧誘席に目をむけた。勧誘席には、自分とは比較にならないほどの美人な女性が座っていて、楽しそうに話している。

「キャーヤダー。わたし、できるかなぁ〜」

 勧誘席の女性はパァと顔をほころばせ、サッカー部の学生も満足そうにニヤニヤと笑っていた。

 優は、ため息をつき、立ち上がった。

「帰ろう……」

 そのときだった。



「夕方6時、611教室でまってるから!」



 と、多田羅の声が聞こえたような気がした。優は、ぶんぶんと顔をふると、大学の門にむかった。

(わたしが、役者なんて……)

 

 優は611教室の前で、ボー然と立ち尽くしていた。どうしてわたしはココにいるのだろう? あれほど自分には向いていないと、いいきかせたのに……。

 優は、そっと教室の中をのぞいてみた。すると、多田羅がいきなり飛び出してきた。

「うほー、うほー!」

 多田羅は、じっと優を見つめると、やがて両手をあげ、嬉しそうにまわり始めた。

 そのうち、絢子と阿藤も中からでてきて、優の周りを楽しそうにまわっていた。

 優は金魚のように、口をパクパクさせた。

「これって、歓迎されてるのかな?!」

 優がにへ〜と笑うと、絢子がニコっと笑い返した。

「うほ、うほほーい! めし、めしぃぃ!」

「へ? めし!?」

 そういうと三人は優を持ち上げ、教室の中に入っていた。

 優は、両手両足をヒモで縛られ、木の棒に子豚のように吊るされていた。

「わぁぁん! どうなってるのぉ!!」

 よだれをたらした絢子が、優の下をリンボーダンスでくぐっていく。

「わ、柔らかい! って、関心してる場合じゃないよぉぉぉ!」

 優が教室を見渡すと、隅にゴスロリな格好をした女性が座っていた。優は、無我夢中で助けを求めた。

「あ、あの、助けてください!」

 ゴスロリな女性はニヤっと笑うと、(ヤダ)という目つきをした。やがて、三人の目が鋭くなると、三人は優の前で手をあわせた。

「では、いただきま〜す!!」

 三人が優に襲いかかる。優はヒッと小さく声をだすと、心の底から叫んだ。

「や、やめてください!!」

 優の声が教室に響きわたる。と、同時に、三人の体がビクッと反応した。

 多田羅の目が普通に戻る。

「あれ? もしかして、またイッてた?」

「そうみたいね。あーもう、霧子! 時間がきたら止めろっていったでしょ!?」

 絢子が教室の隅にいる霧子にそういうと、霧子は(だって面白かったんだもん)と、反抗的な目つきをした。

「このゴスロリがぁぁ!」

 絢子が拳をあげると、阿藤が飛び込んだ。

「女の子に乱暴はいけないッス!!」

「じゃあ、あんたが死ね!」

絢子の拳が阿藤にヒット。阿藤は教室の外に吹っ飛んだ。

「じゃあ〜5分休憩〜」

 多田羅がそういうと、絢子と霧子は教室をでていたった。優は、口をパクパクさせながら、多田羅に質問した。

「あの、さっきのは……?」

「ああ、原始人になりきる練習。それより、これ、声だして読んでみて」

 そういうと、多田羅は冊子を優に渡した。

「いろいろ注文をつけるから」

「え? 注文?」

「うん。まずは楽しく読んでみてくれる?」

「……楽しくですか……?」

「そう、頭でイメージして」

 優は、目をとじると頭の中で楽しそうなイメージを思い起こしてみた。暗い壁を何枚も何枚も越え、やがて、そこにはお花畑があった。優は声をだして冊子を読み始めた。

多田羅はブルっと体が震えるのを感じた。多田羅の目の前に小人が立っていたのだ。

「きた……」

 
  (つづく)  


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