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エチュード
第4話
text ことばたらず / Illust Gh



 優は大学のベンチに座り、目を閉じた。

 レイカと過ごした幼少時代、中学、高校、

 レイカにがむしゃらに付いていった人生が走馬灯のように頭の中をかけめぐる。

 きっと、レイカは迷惑だったのだろう。

 幼馴染というだけで、親同士が仲が良いというだけで付き合ってくれた。

 新しいグループに入っても、優を強引に仲間にいれてくれた。きっと、周りから非難もあっただろうに。



「な〜に、先にいってんだよ」

 目をあけるとレイカが横に座っていた。

 優が「ごめん」というと、レイカがめんどくさそうにつぶやいた。

「まぁいいけど。ねぇ、今日、サッカー部に入ろうか? ほら善はいそげっていうし」

「あ、そ、そのことなんだけど……」

 絢子は自販機でジュースを買おうと財布から小銭をとりだした。そのときだった。

「はぁ? 演劇サークルに入るだぁぁ!?」

 という声が大学内に響きわたった。

 絢子が横をみると優とレイカがベンチに座っている。レイカは顔を紅潮させると、ギンと鋭い目を優に向けた。

「わたしとサッカー部のマネージャーやるって決めたじゃん! どうして急にそんなこというんだよ!」

「ご、ごめん……」

「誰かに説得されたんだろ? 演劇サークルの誰かさんによぉ!」

 

 優はレイカの迫力に圧倒されていた。それでも、なんとか、体の底から言葉を押しだした。

「……じ、自分で決めた……」

 レイカの目がいっそう鋭くなる。ビリビリとレイカの怒りが肌に伝わってくる。

 優の手が小刻みに震えた。

「あんたに何ができるのさ! 暗くて、彼氏も友達もいなくて! あんたは、わたしがいなけりゃ何もできないだろーが!」

 そういうとレイカは、優の腕をつかみ、サッカー部の勧誘席に向かった。優は、レイカの手を無我夢中で外した。

「やめて!」

「あ? なに反抗してんだよ!」

 パンという音が大学内に響きわたった。レイカの平手が優の頬を打ったのだ。

 絢子が厳しい表情で間に入る。

「ちょっと、あんた……」

「あ? 関係ないだろ? ほら、こっち来いよ! 金魚の糞!!!!」

 そのときだった。優の心の雫が、静かにポチョンと落ちた。やがて、それは、みるみるうちに濁流となり、溢れかえり、鉄の結界を押し流していった。

「うわぁぁぁぁ!!」

 優の叫びが大学に木霊する。優のどうしようもない叫びが大学を侵食していく。

 

 レイカは気がつくと、見知らぬ街に立っていた。周りをみると、死体が転がり、町は破壊されている。

 レイカがふと下をみると、焼け焦げた赤ん坊が横たわっていた。ツンと肉をやいた臭いが鼻に伝わってくる。

 レイカが、恐る恐る赤ん坊をのぞきこむと、赤ん坊の目が少しだけ開いていて、じっとレイカを見つめていた。その目は、哀しみにみちていて、寂しく、はかないものだった。

「ひっ……」

 レイカは、後ずさりすると、その場に倒れこんでしまった。そして、その赤ん坊が、優だったのだと気がつくと、どうしようもない痛みが、レイカの心にじわじわと広がった。

「レイちゃんには感謝してる……だけどわたしがきめたのっ! 生まれて初めてわだじがぎめだの!!」

 優はそういうと、ダッと駆けだした。

 レイカは、震える手を両手でグッと握った。冷や汗がとまらない。歯がカチカチと鳴っている。

 絢子はレイカの肩にポンと手を置くと、そっとつぶやいた。

「ヒナはいずれ巣立つもんさ」

 レイカの目から涙が溢れる。だが、レイカは、不思議とすがすがしい気持ちになった。

「……ああ、そうだね……」

 

 優は、構内に入ると、611教室のドアを開けた。そこには、多田羅、阿藤、霧子がいて、柔軟をしていた。

 優は心の底から、声を絞りだした。

「わ、わだじを、わだじを、ココにいれてください!!!」

 優がそういうと、三人はニコっと笑い「いいよ」と返した。

 そして月日はたち一年後。

 桜の花びらが舞う中、新入生が大学の門をくぐる。その表情は期待と不安でいっぱいだ。

 その中をいかにも大人しそうな女の子が、

歩いていた。顔にはメガネ、手にはチラシが山積み、おまけにやくざ風の男に絡まれて、どぎまぎしている。

「おい嬢ちゃん……。チラシを受けとったからには茶道部に入るんだろうな?」

「あ、えっと……」

「聞こえないんだよ! もっとデカイ声だせや! あんまりなめてると抹茶の雨ふらすぞ!」

 女の子は今にも泣き出しそうだった。

 そのときだ。

 

「あいや、またれい!!」

 という声が聞こえてきた。女の子が声の方にふり向くと、水戸黄門の姿をした一行がたっていた。

 そこには黄門様の姿の阿藤、助さんの姿をした多田羅、かげろうのお銀の絢子、ゴスロリな格好をした霧子、格さんの姿をした優が印籠をだしていた。

「ひかえおろ〜このお方をどなたと心得る!」

「どうも〜メタボリックで糖分ひかえめな、水戸光圀でっす!」

 そういうと阿藤は杖を放りなげ、腰をふんふんと動かした。

 女の子はゾゾゾと背筋を震わすと、「変態ぃぃぃ!」と逃げていってしまった。

 すかさず絢子のカカト落としが阿藤に炸裂する。

「勝手に暴走するんじゃないよ!!」

 霧子の冷たい目が阿藤に突き刺さる。

 阿藤は地面に塞ぎこんでしまった。

「先輩たちって本当に頭がわるいですよね」

「なにぃぃぃ!!」

 全員が横をみると、うっかり八べえの格好をしたレイカが立っていた。

「っていうか、どうして、あんたがいるのよ!?」

「……優の子守り……」

 絢子はぷっと笑うと、

「どっちが?」

 といい放った。レイカの顔がまたたくまに紅潮する。優も思わずプッと吹き出してしまった。

 向こうの方から、新入生が歩いてくる。

「お、きたきた。エチュードやるぞ!」



 多田羅がそういうと、優の顔がパァと明るくなった。

 


  (終)  


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