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いちご(15)アナしなのちゃん 第3話 UFO、宇宙人、女子アナ、女子高生
text 御田井万我 / Illust えのもとぺれ
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バーテンダーの飲酒盃は全身の骨格が抜かれたかのように崩れおちた。鈍い音を立てて後頭部を床に打ちつけた。飲酒盃は床に転がったままピクリとも動かない。
お腹を襲った集中豪雨をなんとかしのぎきった妹のひなのが戻ってきた。戦闘後の疲労が抜けきっておらず、足元がおぼつかない。
ひなのはカウンターの中に倒れている飲酒盃を見つけると規格以上の電流を流されたロボットのように飛び上がった。姉のしなのに助けを求めた。
「しなちゃん、バーテンダーさんが倒れてるよ!」
「う〜ん…」
しなのはまるで口からシャボン玉を吐き出しそうな感じだった。「もう、肝心なときに!」ひなのは飲酒盃の側に駆け寄って膝をついた。気を失った人を見るのは初めてだった。いざ目の前にすると結構焦る。
「あわわっ。だ、大丈夫ですか?」
飲酒盃は目を閉じたまま微動だにしない。
「しなちゃん!?」
しなのは桜色に染まった頬から甘い声を出して答えた。
「なんかね〜、グ○のヒー○ロッドで全身ビリビリ〜は『たまら〜〜〜ん』で、バタンキューなんだよ」
ひなのは手を飲酒盃の鼻の上にかざした。
「この人、息してないよ?」
それから、胸の上に耳を押し当ててみた。
「この人、心臓動かしてないよ?」
ぱちぱちと瞬きをして、
「この人、死んでるの?!」
ひなのは、警戒するプレーリードックの様に立ち上がると、
「ど、どどどどど、どーーーーーーしよーーーーっ!」
しなのがやっとカウンターの内側にやってきた。グラスを妹に差し出しながら言った。
「こういうときこそ落ち着いて行動するんだよ。ささっ、お水でも飲んで」
ゴクゴクゴク。
双子の姉妹はそろって腰に手を当ててコップの中身を飲み干した。
「キャーッ! これお酒じゃない!?」
「ぷはぁ〜」
もうだめだ。しなちゃんは頼りにならない。どうしたらいいの? 考えなきゃ。しっかりしろ私。しかし、すぐに名案が浮かぶわけもない。ひなのは突っ伏した。マネキンの様に動かない飲酒盃の胸の上に。その瞬間、マネキンの目が開いた。ひなのは蛙のように飛び上がった。
「生き返った!」
「最初から死んでませんでした」
「は?」
さっきまで、死体だと確定されていた男はすっくと立ち上がると双子が呆然とする言葉を口にした。
「私は宇宙人ですから」
しなのはグラスを持ったまま飲酒盃を見つめていた。グラスの中身は水に変わっていた。しなのは、正常な思考を取り戻す必要があったからだ。ひなのはしなのの陰になるように陣取った。顎を引いて斜めに飲酒盃を見ていた。飲酒盃はいたって冷静だった。
「私はお尻の穴から呼吸をしています。また、心臓は足の裏にそれぞれ一つずつありますので、胸に耳を当てても鼓動は聞こえません」
二人の女性のブリザードのような視線を物ともせず自称宇宙人は続けた。
「南条しなのさん。UFO特集が気に入らないんですよね? 宇宙人が信じられないんですよね? 大丈夫です。あなたが携わっている番組はフィクションではありません。リアルです。真実です。なぜならば、私が宇宙人だからです」
ひなののX型で内股の足が震えていた。姉を求めるように後ずさりした。ひなのは飲酒盃から鼓動も呼吸も感じ取ることができなかったので余計に恐れている。しなのも同じ気持ちだったが、幾分か妹より勇気と経験があった。
「なにか証拠でもありますか?」
「分かりました。UFOの鍵を見せましょう」
そう言うとポケットの中に手を突っ込んだ。双子は何か凶器が出るのではないかと警戒して半歩下がった。
「これです」
一本の鍵が差し出された。それは地球人の誰が見ても鍵だと分かるような形状をしていた。しなのはアナウンサーらしく分かりやすい感想を述べた。
「車の鍵…にそっくりですね」
しかも、それにはご丁寧にト○タ自動車のエンブレムまで刻み込まれていた。
「それは、カモフラージュのためですか?」
「いいえ。違います。私のUFOは正真正銘ト○タの製品ですから。ト○タは宇宙でも信頼性の評判は上々ですよ」
双子はお互いに目配せをした。
「どうも信じてもらえないようですね。いいでしょう。次の証拠を出しましょう」
差し出されたのは、一枚の写真だった。
「金髪・・・?」
「白人・・・?」
「これは私の妻です」
「美人さんだぁ…」
しなのがちょっと的外れな所で感心をしていると、ひなのがしなのの肩の上から首を出して言った。
「ひょっとしてノルディック型の宇宙人さんですか?」
「あなた方はそう言っていますね」
ノルディック型の宇宙人はスカンジナビア半島の白人に似たような姿をしているのだと、ひなのがしなのに解説した。
どこかで聞いたことがある話だ。
そうだ。思い出した。
確か系列局のバラエティー番組で同じような白色人種の写真を見せて宇宙人だと言っていた人がいた。その人は、証拠としてあれを出したんだ。あれを……。ひなのが突く。
「住民票ある?!」
飲酒盃はもったいぶって大きく頷いた。
「ある。今、ここにある」
そういうと飲酒盃は体を折り曲げてバーカウンターの下から何かを取り出した。
美少女フィギュアだった。
「じゃん!」
まるで、飲酒盃は印籠を突き出すかの如く美少女フィギュアを一五歳の双子の前に突き出した。
突き出された分、しなのとひなのは引いた。もちろん、身体的に引いたのではなく、精神的に後退したのだ。飲酒盃は美少女フィギュアの太股を指さして、裁判で一発逆転を狙う弁護士が用意した証拠を披露するように言った。
「この写しは、住民票の原本と相違ないことを証明する」
日本語で書いてあった。しなのは体を二つに折って笑い始めた。腹の底から笑っていた。目に涙をためながら、怪訝な顔をしている飲酒盃見て、ひなのを見て、再び我慢できず笑い始めた。
面食らっているひなのと飲酒盃を尻目に、しなのは腹筋が痛くなるほど笑った。笑いながらもポケットから何かを取り出そうとしているのが分かった。けれども、緩みきった身体は言うことを聞かないらしい。なかなかの苦労をしながらポケットから手を抜くことに成功した。
しなのの手にあったのは、赤いロボットだった。
シャ○専用ザ○。
笑いの波状攻撃と戦いながらもシャ○専用ザ○を突き出した。
「えい!」
右手にはシャ○専用ザ○。左手は自らの腰に当ててどっしり構えている。その顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。
飲酒盃を見つめる。
見つめられた飲酒盃。
しなのの口からは何も発せられない。けれども何かを伝えようとしている。
飲酒盃は大きく頷くとぎゅっと右手を持ち上げた。その手には住民票である美少女フィギュアが握られていた。自信たっぷりの飲酒盃としなの。二人には他人からは見えない強いリンクが結ばれた。
もうひなのにも伝わっていた。先ほどは慌てて鞄の中にしまい込んだリトルグレイのフィギュアを取り出した。そして、しなのと飲酒盃に負けじと高々と突き上げた。
ここは都会にある半地下のバー宮古。お客の少ない薄暗い店内で、女子アナと女子高生と宇宙人の友情がリンクされた。しなのはちょっと顎を引き、男ならドキリとするような上目遣いで、
「ありがとう…優しいバーテンダーさん。今夜は素敵な止まり木が見つかりました。そこには、優しい人たちがいました」
しなのは決めた。
「宇宙人が信じられないなら信じなくてもいいの。ただ、なぜ信じる人がいるかをなぜ自分が信じられないかを番組を通して真摯に考えていくね」
その言葉にひなのは大きく頷いた。一方で飲酒盃は大きな身振りで抗議をした。
「僕は本当に宇宙人なんだ!」
しなのはその言葉をウインクで受け止めて、
「宇宙人がいれば、シャ○専用ザ○に乗ることもできるかもね」
と、言った。
三人はそれぞれのフィギュアを高らかに掲げ乾杯をした。
−−−おしまい
(※ お酒は二十歳になってから。作中でしなのがカクテルを飲んでいますが、飲酒盃はコーヒーとミルクを混ぜ合わせた物を提供しているだけでアルコールは含まれていません。)
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