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吸血鬼一丁!
第1話 

text 平田大助 / Illust 松野時緒

「ラーメンのちくしで〜す、出前お持ちしました〜」

 ドアに声をかけると、中からぱたぱたと足音が聞こえた。

 すぐにドアが開いて、中に通される。

 出前はすぐに完了だ。

 バイクで店に戻ろうとした時だった。

 目の前に、金髪の女性がよろよろと飛び出してきた。

「え!」

 前に出るつもりだったバイクがバランスを崩しふらふら。

 そして女の子も前のカゴにぶつかってきた。

 持ちこたえられなくなってこけるバイクと俺。

「痛てて……」

「うう……」

「だ、大丈夫かよ?」

「うう……た、助けて……」

「え……」

「助けて、お願い」

 かすれるような声。

 肩を抱いて揺すったけれど、彼女は何も言わない。

「警察に……電話した方が」

 途端に彼女は俺の腕を掴んで、青い瞳で見つめてくる。

「警察は……だめ!」

「じゃあ病院に……」

「病院も……だめ!」

「じゃあ……」

「た、助けて、お願い」

 それっきり、彼女は眠りについたように、動かなくなった。

 細くて白い手首。

 そっと指を当てて、眼を閉じた。

 脈を拾おうと必死になって、指先に神経を集中する。

 しばらくは、彼女とぶつかってびっくりしたので「事故」って言葉で頭が一杯で脈なんて拾えなかった。

 でも、二・三回深呼吸したら、気持ちが軽くなって、指先に脈を感じた。

 生きてる……よかった。

 しかし、すぐにさっきの「警察はダメ」って言葉が思い出される。

 金髪で青い瞳。

 綺麗で……かわいい感じの女性だ。

 でも、着ている服はどことなく薄汚れていて、あちこち破れている。

 足だって何もはいていなかった。

 荷物は、何か重たそうな感じのバックが一つ。

 嫌な予感はどんどん膨らむ一方だ。

 だからといって……彼女を置いていくわけにもいかなかった。

 俺はバイクを起こすと荷台の岡持ちを……出前した家の門の影に置いて、彼女を荷台に座らせる。

 重そうな荷物はカゴに入れてネットで押さえた。

 気を失っていてふらふらの彼女……荷台のゴム紐で自分の体と結びつける。

 背中に彼女の胸を感じて、首筋に吐息がくすぐったい。

 急がないと……

 俺は左足でキックペダルを出すと踏み下ろす。

 アクセルをあおってギアを入れると、ちょっとウィリーしながらバイクは走り出した。

 ともかく、家に急ごう。

 俺は……背後の気配に気付かなかった。



 時計の針が真上で重なっていた。

 ラーメン屋つくしの二階が俺の家だ。

「まーくん……女の子は目を覚ました?」

「ううん、母さん、まだみたい」

 眠り続ける彼女。

 俺が覗き込むように見ていると、母がやってきて背中を揺すった。

「まーくん……先にお風呂入って、この娘は母さんが見てるから」

「うん」

 俺がこたえた時だった。

 彼女のまぶたがぴくりとし、ゆっくりと見開かれた。

「目が覚めた!」

「……」

「大丈夫?」

「あ、ああ……さっきの人……ここは?」

「俺の家だけど……その……」

「助けてくれたの……ありがとう」

 彼女は一瞬目をしかめながら、ゆっくりと体を起こす。

 母がやってきて、そんな彼女の体を支えた。

「お名前は? 外人さんみたいだけど、日本語大丈夫そうね?」

「はい……わたしはカミラ」

「カミラ……」

「その……警察とかに、連絡は?」

 カミラが俺と母を交互に見ながら言う。

「それは、道端でダメって言ってたから、何も言ってない」

「そう……よかった」

「その……どうしてか、話してくれない?」

 聞くと、カミラは一瞬視線を落としてから、

「その……信じてもらえるか……わからないけど……」

 ゆっくりと話し始めるカミラ。

「わたしは吸血鬼で……その……戒律を破ったから……追われていて」

「……」

「信じられません……よね?」

 俺と母は同時にうなずいた。

「どうしたら信じて……カバンは?」

「ああ、これ?」

「そう……中を、見ました?」

「ううん」

 カミラは中から機械のようなモノを出す。

 見た事のある機械だ……献血の機械。

「その……その……」

 カミラは言葉を詰まらせながら、俺と母を何度も指差した。

「俺はまさる、こっちは母さん」

「じゃ、まさるさん、血を貰っていいですか?」

「!」

「わたし、看護師の資格あるから、献血はばっちりです」

「献血……」

 カミラは腕をつかまえ、有無を言わさず献血を始めた。

 手際は良いどころか、血管なんか見ないで針を刺しているのに、一発命中だ。

 ゴム紐で腕を縛ったりもしなかった。

 消毒はしなかったけど。

 献血マシンがパックを揺らす音が、微かだが耳についた。

「ねぇ、カミラさん……」

「はい?」

 母が言い出すのに、カミラはびっくりした顔でこたえた。

「まーくんがあなたを連れて来た時は、まだ明るかったのよ」

「?」

「ほら、映画であるじゃない、吸血鬼はお日さまに当たると死んじゃうの」

「ああ……わたし達も進化して……今はそれくらいじゃ大丈夫です」

「じゃあ、どこで吸血鬼を見分けるの?」

「それは……血を吸うかどうかくらいしか」

 献血パックは一杯になったのに機械が止まる。

 カミラは針を抜いて、そのパックを美味しそうに吸い始めた。

 まるでパックのジュースでも飲んでいるみたいだ。

「俺の血……おいしい?」

「は、はい……おなか空いてたから……」

 すぐに献血パックがぺったんこになる。

 じっと見ていると、カミラは思い出したようにかしこまって頭を下げた。

「ご、ごめんなさい、おなか空いてたからつい、断りもなくまさるさんの血を飲んじゃいました」

「い、いいけど……おなか膨らんだ?」

「は、はい、結構なお血でした」

 お血……なんか嫌な言い方。

「本当に、吸血鬼なんだ……で、さっき戒律とか言ってなかった?」

「ああ、その事なんですが……」

「追われてるって、言ってたよね」

「はい……わたしは戒律を、吸血鬼の決まりを破ってしまって」

 カミラは涙を浮かべて、

「村から勝手に飛び出して、それが村長にばれて……」

「なに、やったの?」

「無断外泊……」

 なんだかかわいい理由だ……

「ほんの二〜三日、帰るのが面倒で外泊して……」

「で?」

「戒律をやぶったら、排除されます、殺されるんです」

「!!」

「わたしは……DXに追われてます」

「ディー・エックス?」

「はい、ハンターDX……吸血鬼ハンターです」

「ハンター?」

「はい、彼も以前戒律を破った一人です、でも、その殺しのテクニックを買われて、以来戒律を破った者を排除する側になったんです」

「追われている……見つかったら殺される?」

「はい……もちろん、警察や病院もダメです」

 母が、

「カミラさんは、そのデラックスさんに追われてるわけね?」

「デ、デラックス……」

「DXだからデラックス……デラちゃん」

 カミラは眉間に皺を刻み、俺はちょっと笑った。

 母は微笑むと、

「カミラさんは、どうしたいの?」

「そ、それは……」

「いろいろ聞いちゃったから、この家にいてもいいけど……」

「いても……いいけど?」

「タダって訳には、いかないわね」

「?」

「まーくん、岡持ち、置いてきてるわよね?」

「ああ、うん」

「取ってきて……ついでにどんぶりなんかもね」

 俺は、母に言われて思い出したように家を出た。

 そして……出前した家の玄関に、どんぶりは見つけたけれど、門の所に置いた岡持ちはなかった。

 探してみたけれど、見当たらない。

 俺はその時、見詰めている視線に気付かなかった。



  −−−つづく   

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