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吸血鬼一丁!
第2話 

text 平田大助 / Illust 松野時緒

「俺……ここに置いたと思ったんだけど……」

 探してみたけれど、見当たらない岡持ち。

 俺はその時、見詰めている視線に気付かなかった。



「いらっしゃーい」

 ラーメンのちくし……営業時間は夕方からだ。

 俺は普段、下ごしらえが仕事で、営業時間は皿洗いと出前。

 でも、その皿洗いを今はカミラがやっていた。

 俺は板場に専念し、母が接客だ。

 そんな分担で一週間が過ぎようとしていた。

「カミラちゃんのおかげで、お店助かるわ」

「はい、どうもです」

 そう、カミラのおかげで最近は新たな客も増えていた。

 金髪に青い目のカミラは、接客はしなくても、充分客引きになっている。

 そして、なんといっても給金ナシだ。

 そう、カミラの給金は、俺の血。

「俺、毎日血を抜かれると、たまんないんだけど……」

「す、すみません……一日百で我慢しますから」

「そんな事言って、毎日四百抜いてない?」

「す、すみません……今度からペットボトルに入れて冷蔵庫に入れておきます」

 カミラがシュンとして言うのに、ついつい笑みがこぼれた。

 血を抜かれるのは、ちょっときつくなってきたけど、でも、嬉しくもあった。

 俺の血を飲んでいる時のカミラは、すごく嬉しそうにしている。美味しそうにしている。

 それに、一緒に暮らしているから、話す事だって当たり前だ。

 今まで、こんなに女の子と話したことはなかった。

 俺とカミラは閉店後の店の座敷で、遅い夕飯を食べながら、

「最初吸血鬼って聞いた時はびっくりしたけど、血を吸う以外は普通なんだ」

「はい、吸血鬼も進化した……って聞いてます」

「ふうん」

「でも、世間に存在を悟られないように、それで外泊禁止とか、じかに噛んだりしたらいけないって事になってるんです」

「だから献血セットなんだ」

「はい」

「そう、例のDXって現れないね」

「その事……なんですが」

「?」

 カミラは表情を曇らせて、

「実は……ここの匂いと思うんです」

「!!」

「ここはラーメン屋さんで……働いていて気付いたんですが、ラーメンでも餃子でもチャーハンでもにんにく入れますよね」

「……」

「にんにくだけは……ダメなんです、わたしも……」

「……」

「まさるさん……?」

「カミラさんも、匂い……言うんだ」

「え……」

「俺、生まれてずっと、ここに住んでるだろ、匂いがしみついちゃってるんだ」

「……」

「学校で、ずっといじめられたり、バカにされたりしたんだ」

「そう……だったんですか」

「カミラさんも……そんな事言うんだ」

「す、すみませんでした……そんな事知らないで」

「いいよ、たしかに、にんにく臭いだろうし、ね」

「で、でも……」

「でも?」

「ちょっと気付いたんです」

「なに……が?」

「わたし達吸血鬼は、にんにくが全然ダメ……映画なんかでご存知でしょう?」

「うん……十字架にお日さま、にんにくに……えっと、心臓に杭とか?」

「はい……お日さまなんか、克服したのもあります……でも、にんにくだけはどうしても慣れられなかったんです……だってにんにくなんて、食べないなら食べないで生きていけますよね」

「そうだね……確かに」

「でも……気付いたんです……まさるさんの血は、他の人の血と違います」

「?」

「まさるさんは、毎日家のごはんたべますよね?」

「うん、賄とか母さんが作ってくれるの」

「にんにく、いっぱい入ってますね」

「精がつくから……って母さん言ってるけど」

「まさるさんの血、ほかの人のより、ずっとおいしいし、わたしは好きです」

「!!」

「だから、ちょっとくらいにんにく臭くても、わたしはまさるさんの血が好きです」

 血が好き……ちょっと複雑。

 でも、さっきから真剣な顔で言っているカミラの言葉はホンモノだと思った。

 ここは、血が好きって言ってくれるだけでも、素直に喜んでおくかな。

 今まで、友達が出来なかったのが、こんなかわいい娘に慕われてるだけでも。

 それが「血」だとしても……だ。

「それに……このにんにくの匂いが……ハンターを近づけないのかも」

「ふふ、もうカミラさん死んでると思ってるんじゃないのかな?」

「いいえ……ハンターはもう、ここを感づいています」

「なんで……わかるの?」

「岡持ち……なかったんですよね?」

「!!」

「ヤツは……もう、どこかで、こちらを監視している筈です」

「って……じゃあ、やっぱりカミラさんを殺しに来る?」

「はい……言ってなかったですっけ?」

「?」

「ハンターも、以前は戒律を破った者……また戒律を破らないように、彼には彼の足枷があるんです」

「足枷?」

「そう……わたしを追うと言って逃げないように、彼は決められた時間にわたしを殺して、村に戻らないと死んでしまうんです……おなかを空かせて」

 おなか空かせて死ぬのか……

「カミラさん、それならハンターが誰かの血を吸えばいいんじゃ?」

「彼は特殊なんです……村でスペシャルな血を飲まないと、死ぬんです」

「それってゲームで出てくる回復の薬みたいな?」

 カミラは笑って、うなずいていた。

「スペシャルな血は、わたしも飲んだ事あるんです」

「ふーん」

「ちょっと、まさるさんの血、似てると思います」

 でも、すぐにカミラは真顔に戻ると、

「その時は……襲って来るのは、すぐと思います」

「……」

「その時は……まさるさんやお母さんに、迷惑をかけるかもしれません」

 不安そうなカミラ。

 なんだかそんな顔、見たくなかった。

 さっきの笑顔を、守ってあげたい……思った。



 閉店後、それはいきなり訪れた。

 現れたのは、バンドのボーカルくずれの男。

 身長は二メートルはありそうだ。

 髪はカミラと同じで金髪。

「カミラ……覚悟は出来てるだろうな」

 男の、どこか鼻につく口調に緊張が走った。

 見れば鼻に何かクリップみたいなのをしていた。

 そんな男の手が振られる。

 カミラが俺と母に飛びかかり、一緒になって板場に倒れた。

 壁に、何本もナイフが刺さる。

「ハンターはナイフの達人なんです!」

 足音が近付いてくる。

 戦うしか……店を守らないと……カミラを守るしか!

 俺は立ち上がると、すぐに包丁を構えた。

「人間よ、まず、これを返そう」

 ハンターは岡持ちを投げてきた。

 壁に当たって、音を立てる岡持ち。

 ハンターは両腕を広げる。

 その指先が伸びるように見えた。

 ナイフが光っていた。

「警告する……今、カミラを渡し、退けば命までは取らない」

「人の店で、何語ってやがるっ!」

「では、死ね」

 ハンターの手が振られた。

 ナイフが宙を切り裂く音。

「まさるっ!」

 カミラの悲痛な声。

 俺はしかし、ヤツの投げたナイフが見えていた。

 包丁を振るう。

 円を描くように、だ。

 そんな包丁の軌跡に火花が散り、足元にナイフが転がる。

「うむっ!」

「ハンターさんよ、俺を簡単に、殺せると思うなよ」

「ただのラーメン屋と思っていたら、一癖ありそうだな」

「毎日包丁は握ってるんでね」

 ナイフを投げながら間合いを詰めてくるハンター。

 一つ一つ、弾き落しながら、俺も手を緩めない。

 突き!

 そんな包丁を、ハンターのナイフが止める。

「人間風情が、なかなか……やるな」

「あんたも、よく止めたな」

  −−−つづく   

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