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吸血鬼一丁!
第3話 

text 平田大助 / Illust 松野時緒

「人間風情が、なかなか……やるな」

「あんたも、よく止めたな」

 俺が言うと、ヤツは笑い、次々とナイフを繰り出してくる。

 そんな攻撃に、ともかくカミラの楯になるように動く。

「どうして、そんな女を守る?」

「理由? 助けてって言われたから、そんだけだ!」

「安っぽい正義感は命取りだ」

「取ってから言えっ!」

 でも、押されている。

 ヤツの動きは尋常じゃない。

 ナイフを弾き返してばかりで、反撃できない。

 時々、ふと隙が出来る。

 その瞬間を見逃さないで、包丁を出す。

 すると、そんな自分の腕から血が噴出した。

 隙なんかじゃなくて、誘っている!

 強い……とても、勝てない。

 後ろに引く。

 そのままカミラと一緒にしゃがんでカウンターに隠れた。

 途端にさっきまで立っていた場所をナイフが通過。

 壁に一直線に突き刺さるナイフ。

「つ、強いっ!」

「まさるも、強いね」

「そ、そう?」

 カミラがすぐ近くで、ちょっと引きつった顔で微笑んでいる。

「わたし、ここまでやってくれるなんて、思わなかった」

「そう……」

「包丁で、すごいね」

 カミラが言うと、また壁にナイフが刺さった。

 何本ナイフを持ってるんだか……

「まぁ、包丁はいつも板場で使ってるから、ね」

「そうなんだ」

「でも……ごめん」

「なに、いきなり」

 俺は一度、深呼吸のようなため息をついて、

「カミラさん、助けられそうにないよ」

「……」

「カミラさんが言っても、ヤツとの力の差は……」

「じゃあ、逃げて」

「!」

「あいつの狙いはわたしだけだから……戒律で人をやたらと傷つけたり、命を取ったりはしないわ」

「でも、さっきヤツは言ったよ」

 また、頭上をナイフが通過した。

 壁に刺さっているナイフが増える。

「安っぽい正義感は命取り……ってね」

「でも!」

 俺はカミラを押しやると、

「俺、嬉しかった」

「なに、が?」

「前、話したよね、この体臭だから、女の子や、友達だって、いなかったんだ」

「……」

「カミラさんは嫌でも、一緒にいてくれたよね」

「でも、それは、まさるの血を……」

「それでも、よかったんだ、友達がいてくれる、俺を必要にしてくれるってね」

「まさる……」

「それが、カミラさんの食欲を満たす為って理由でも、全然かまわなかった、一緒にいれて、楽しかった」

 俺は立ち上がった。

 ハンターはすぐにはナイフを投げてこなかった。

 俺の視線と、ヤツの視線がぶつかり、火花を散らす。

「だまってその女を出せば、命まで取らない……最後だ」

「嫌だね、女の子襲われてるのに助けないなんて男が泣くぜ」

「つまらん事を……では死ねっ!」

 ハンターの投げるナイフ。

 次々と俺の体をかすっていった。

 わざと外しているのがわかる。

 でも、そんな中でいくつかのナイフは、とどめを刺すつもりのものだ。

 試されてる……楽しんでいるのか?

 一つ一つ、見極めながら、ともかく間合いを詰める。

「まさるっ!」

 カミラの声。

 そんな声が、一瞬でも気持ちをゆすり、集中力がそがれる。

 頬を切り裂くナイフ。

 痛いというより、熱い感覚が走る。

 行くしか!

 思って飛び出した。

 スローモーションに思える視界。

 ヤツと目と目が合った。

 そんなハンターの手が、振られる。

 今まで早くて見えなかったそれが、今回はやたらはっきり見えた。

 まだ、手からナイフが離れていない。

 でも、その動きで、とどめをさされるのが、なんとなくわかった。

 殺される!

 でも、カミラを見殺しなんて、自分で自分が許せない。

 ヤツを……殺るしか!

 一歩を踏み込んだ時だった。

 何か、鐘でも叩くような、ナイフや包丁のぶつかり合うのとは違った金属音が響いた。

「ぐっ!」

 ハンターが腕を伸ばしきったところでうめき声を上げる。

 ゆっくりと崩れ落ちるハンター。

 その背後には、母がへこんだ中華なべを持って肩を上下させていた。

「お、お店で暴れるのは、だめよ、だめなんだから!」

「か、母さん……」

 カウンターに隠れていたカミラが飛び上がる。

「まさるっ!」

「うわっ!」

「ありがとう……そこまでして守ってくれるなんて!」

 涙をぽろぽろこぼして言うカミラ。

 ドキドキしていると、その顔が近付いてきて、キス。

「むっ!」

 キスなんて、小さい頃母さんとしたくらいだ。

 カミラの唇は、とてもやわらかかった。

 最初はびっくりして、どうしていいかわからなかったけど……固く閉じたカミラの瞳と頬を流れる涙に、なんだか気持ちも熱くなる。

 手にしていた包丁をカウンターに置いて、ゆっくりと彼女の体を抱きしめた。

 もう、離したくない……って思った。

 しかし、頭にこぶを作ったハンターが、微かに動き始める。

「ま、まだやるのかっ!」

 カミラをかばうようにして、俺はまた包丁を握った。

 ハンターは唇を震わせながら、

「俺は……もう時間がない……お前達の勝ちだ……」

 カミラから聞いている……ハンターの「時間」ってヤツだ。

 俺はもう、戦意のないハンターに、

「お前は……どうなるんだ?」

「死ぬんだ」

 すると母がやってきて、俺の包丁を奪った。

 その切っ先を白い肌に突き立てる。

 ハンターの首筋とかじゃなくて、母自身の腕に包丁を立てていた。

「母さんっ!」

 母は自分の腕に傷を付けると、そこから滴る血をハンターの口にやった。

 途端に元気を取り戻すハンターに、俺もカミラも店の隅まで逃げてしまう。

 母はうんざりした顔で、

「お店で人が死んだら、感じ悪いでしょ」

 母は傷を手で押さえながら、今度はカミラを見て、

「カミラちゃん!」

「は、はいっ!」

「あなたはデラちゃんより先に店に入ったんだし、同じ吸血鬼だから教育係りっ!」

「えーっ!」

 びっくりするカミラ。

 ハンターが何か言いそうになるのに、母はフンと鼻息を荒げると、

「デラちゃんは私が命を助けたんだから、言う事をきく事!」

 また母が中華なべを構える。

 俺は母に並ぶと、

「この二人、狙われる側と殺す側……」

「二人ともかくまってあげるから、いいの!」

「か、母さん……」

「この二人、お店で働かせるのにお金要らないでしょ、血はいるけど」

「か、母さん……」

 一番たくましいのは、母さんだと思った。



 ハンターも接客するようになって、女性客も格段に増えた。

 でも、一番嬉しそうなのは……母だった。

 俺も、母がにこにこしているのは、いいかなって思う。

 勝手口からカミラが顔を出して、

「ねー、まさるー!」

「あ? なに? カミラさん?」

「ちょ、ちょっと、来て」

「母さん、ちょっと外すね」

「はーい」

 俺は勝手口を出ると、そこにはもう献血の準備が出来ていた。

「ねー、まさるー、おなか空いた!」

「よ、夜まで待てないのかよ……」

 途端にカミラがキスしてくる。

 びっくりしても、すぐにそんな体を抱き寄せて、逆に逃げられないくらいに抱きしめた。

「やめて、ついつい歯立てたくなっちゃうから」

 最近、ちょっとだけ、吸血鬼になってもいいかな……って思うようになった。



  −−−おしまい  

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