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みたまちぇんじ
第2話
text 山本桐生 / Illust 玉倉かほ



 春江野葵はどういう人物か?

 隆の身内という事を抜きにしても葵は『美人』とか『可愛い』と呼ばれる部類だろう。

 深く、光を吸い込みそうな程に艶やかな黒髪。それとは対照的な白い肌。

 黙っていれば人形のようにさえ見える。

 だけど実に明るく行動的、学校でも笑い声の中心にいる。

 そして弟である隆が知るのは基本的に生肉が大好き。プロレスとサッカーに熱狂し、絶叫する。そして下ネタが嫌いじゃない。

 そんなギャップも含めて、隆も姉である葵を『美人』だと思うし『可愛い』と思うのだろう。



 ミタマが起きそうだけど。その言葉に葵は隆と共に自室へと向かうのだった。

「ほら伸びてる」

 葵の体がベッドの上でグイーンと伸びていた。さらにコロンコロンと転がる。そして上半身を起こした。

 すると……ぴょこんっ

 その葵の頭。猫の耳がピクッと動く。そしてその体を見回して。

「……どうやら願いは叶ったみたいね」

 そう葵?は呟いた。

「姉ちゃん?」

 その隆の声に反応するように葵の顔が向けられる。

「違うわ。私はミタマよ」

「やっぱりミタマなのね!!」

「あら葵。おはよう。隆もおはよう」

 ミタマ姿の葵。葵姿のミタマ。

「ちょっと、これはどういう事なの?ミタマは説明出来る?」

「昨日、あなたが願ったんじゃないの。『ミタマになりたい』って。だから私も願ったの。『葵になりたい』ってね。そうしたら神様が入れ替えてくれたみたい」

「えっと、ミタマ?」

「なに、隆?」

「じゃあまた姉ちゃんとミタマが元に戻りたいって願えば、元に戻るって事?」

「多分ね」

「じゃあ、今すぐ元に戻るよ!!」

 と葵は言うのだが。

「お断りだわ」

 ミタマはスッパリサッパリキッパリと。

「なっ、ミ、ミタマ、まさかこのまま私の体を乗っ取るつもりなんじゃ!!?」

「違うわ。私はただ伝えたい事があるだけ」

 葵の体から伸びる猫の尻尾が揺れる。

「伝えたい事?何よ、それ?」

「それは……」

「それは?」

「……取り合えずお腹が空いたわ」



 椅子の上で前足を組んで仁王立ちする猫が葵。そしてネコ耳、尻尾の生えた葵がミタマ。

 テーブルを挟んで向かい合っていた。

 さてどうしようか?その光景を見て、隆の足が止まる。

 姉と猫のために朝食を用意してみたのだが。

 このトーストと猫缶。どっちをどっちにやれば良いものやら……

 取り合えずはビジュアル面で考えて、猫缶を猫姿の葵へ、そしてトーストを葵姿のミタマへ。

「ちょっと隆。私を馬鹿にしているの?なんで私がキャットフードを食べなきゃならないのよ」

「だ、だって姉ちゃん、今は猫だろ」

「姿は猫でも中身は人間なの」

「分かったよ」

 と隆はトーストとキャットフードを交換するのだが。

「待ちなさい、隆」

 今度はミタマの物言い。

「中身は猫でも今は人間なのよ。それは食べられないわ。それ以前にそのメーカーの猫缶は食べ飽きているの。トーストにしてちょうだい」

「お前、本当に元は猫?ずいぶんと人間っぽいよな」

「ふふっ、そうかしら?」

「ミタマ」

 葵だった。猫用のネズミ型の玩具。それを見た瞬間。

 葵の頭のネコ耳がピンッと張り、その尻尾も真上に跳ね上がる。

 そしてネズミの玩具を放り投げると。

「にゃぁぁぁっ!!」

 ミタマは跳び付いた。

「やっぱり猫だな」

 呟いた隆の目の前の光景。姉ちゃんがネコ耳と尻尾を付けてネズミの玩具にジャレ付いている。

 その光景を見て隆は……

 パシャッ

 携帯電話のカメラに収めてみた。

「ちょっと隆、何やってるのよ!!?」

「いや……凄い光景だと思って」

「画像だけ見たら私が馬鹿みたいじゃないのよ!!」

「じゃあ、こっちも」

 今度は携帯を猫姿の葵に向けた。反射的に葵もポーズを決めてしまう。

 パシャッ

 ファイティングポーズをとる猫ってのも凄い光景だな……隆は心の中で呟いた。



 猫とはよく寝るモノ。

「私はもう少しだけ寝かせてもらうわ」

 お腹がいっぱいになったせいだろうか。ミタマはそう言って再びベッドの上に横になる。

 残された葵と隆。学校も休んで、外に出る事も出来ないので。

「ゲームでもするかな」

 そんな隆に対して葵は。

「私はちょっと外に出てくるね」

「外?何で?」

「せっかく猫になれたんだしさ。どうせなら少し楽しみたいじゃない?」

「ちょっと止めろよ。何が起こるか分からないんだから。今日一日は家に居た方が良いって」

「大丈夫、大丈夫、ちょっとお隣に行くだけだから」

「友昭さんのトコ?」

「そそ。ちょっと友昭くんの部屋を物色しに行こうと思ってね」

「止めろ!!姉ちゃんが言うとホントに物色しそうだよ!!不法侵入と同じだぞ!!」

「私……猫だもん。ミタマだっていつもお隣にお邪魔してるし。観倉のおばさんだって可愛がってくれてたし」

「なんでそんな駄目な方向にアグレッシブなんだ……告白も出来ないくせに……」

「じゃあ、行ってきます〜」

 隆の最後の言葉を無視するように葵は部屋から飛び出すのだった。



 やっぱりミタマの様子は気になる。

 ゲームを始めてみても、どこか隆は落ち着かない。

「はぁ……ミタマの様子を見て来ようか」

 ため息を吐き、隆は誰に言うともなく呟いた。

 そして葵の部屋の戸を開けるのだが、その光景を見て隆は言葉を失う。

「なっ、えっ?」

「あら、隆。どうしたの?」

 そこに葵姿のミタマはいるのだが。

「ど、どど、どうしたのじゃなくて……そ、その格好……」

「ああ、これね」

 ミタマは先ほどまで着ていた服を摘み上げた。隆はコクコクと頷く。

「少し心地が悪いわ。やっぱり私が猫だからかしらね」

 とミタマは笑うのだが、隆としては笑う事も出来ない。まさに硬直。

 ベッドの上のミタマは全裸だったのだ。つまりそこには裸の姉の姿。

 姉とはどれくらいまで一緒にお風呂に入っていたのだろうか。

 隆が小学校の頃、3、4年前までは一緒に入っていたと思う。

 だが今そこには隆の知らない葵の姿があった。

 これは『ダメ』だ。

 隆が心の奥底に閉じ込めたモノがせり上がるのを感じる。考えないように、意識しないようにしていたモノ。

 それが隆の意識に覆い被さり、思考が停止する。だが体は自然と動いた。

「どうしたの隆?」

「……」

 姉の体へと踏み出そうとした、その時。

「やっぱり外は危ない!!」

 猫が一匹、部屋の中に飛び込んで来た。それはミタマ……姿の葵。

 一瞬にして隆は引き戻された。

「姉ちゃん?ど、どうしたんだよ?」

「どうしたもこうしたも、野良猫に処女を奪われるトコだったよ!!」

「ブッ!!」

 あんまりの言葉に隆も吹き出す。

「迂闊に外は歩け……な……え?」

 そして葵は気付く。

 ベッドの上。全裸の自分。そして隆。それらを交互に見回して……

「……隆、怒らないから言ってみなさい。中身がミタマなのをいい事に、お姉ちゃんの体に何をしようとしたの?」

「ち、違う、ご、誤解だって!!まだ何もしてないよ!!」

「『まだ』!!?『まだ』って何よ!!?」

 そうして鋭い猫の爪が隆に振り下ろされるのだった。



 
  (つづく)  


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