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ネコ型ももこ量産部
第1話
text 十七尉 / Illust あさのむつき

「ネコ型ロボはもう古い」

 年度初の部活動ミーティングで、部長・水鳥ももこは開口一番そう言った。

 制服の上から白衣こそ羽織ってはいるが、ハイテク機器が積まれた薄暗い部屋に彼女の幼顔は不釣合いのようでもある。

「古い、と申しますと。ももこ様」

 メガネに三つ編みの副部長・鶴間朱乃がそう返した。現在、彼女達の部にはこの二人しか在籍していない。

「現在の『ネコ型ロボ』市場は、一社が業界シェア99.4%という独占体制に陥っている。そこへ我々は切り込んでいかねばならない」

「なるほど。競争が無い故に発展しない技術を、我々の手で高めようと言うわけですね」

「ああ。我が部を救うにはもはやそれしかない。このプロジェクト、必ずや成功させよう。我が『量産部』の名にかけて!」



 私立志楼北高校。

 新入生・南聖一は、放課後の校舎裏で悩んでいた。

「…どうしようかな…」

 部活動のことである。聖一は入学式の日から一週間、風邪で休んでいたためまだどこにも所属していない。

「どっかに入らないといけないんだよな確か…迷うな〜」

 県内でも屈指のマンモス高校である志楼北高校には、部活動が非常に多い。

 野球部、サッカー部などのメジャーな部活動から、宇宙部、営業部、ペレストロイカ部といった活動内容がいまいちわからない部まで新入生案内に乗っている。

 選択肢が広がるのはいいのだが、気になるのは新入生案内最終ページに書かれた“校長からの諸注意”と題された事項…

“我が校は部活動数が非常に多く、故に部活動間での新入生の取り合いが非常に激しい。中には手段を選ばぬ輩も多いので、新入生諸君は気をつけること。マジで。

なお、新入生勧誘にBC兵器を使用した部は無期限の活動停止とする”BC兵器ってなんだ…?)

 見慣れない単語に聖一は戸惑った。「兵器」というくらいだから穏やかではないのだろう。

 そう考えていると、

「どうしましたかそこの人」

 突然後ろから声をかけられた。聖一が振り返ると、そこにはメガネに三つ編みの女生徒が立っていた。

「えと…あなたは?」

「申し遅れました。私はこういうものです」

 そう言って女生徒は名刺を差し出した。反射的に聖一はそれを受け取ろうとする。

「あ、こりゃどう…」

「と見せかけておりゃああああああ!!!」

 ドス!と、聖一は腹部に強い衝撃を感じ、すぐに意識を失った。



「………は!」

 聖一が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋であった。

「目を覚ましたようね」

 聖一の前に二人の女生徒が立っている。片方には見覚えがあった。

「ここは…!?」

 すぐに自分の手足が縛られていることに気がついた。

「これは!? 一体どういうことですか!」

「ふふふ逃げられないよ南聖一くん」

「!」

 聖一から奪い取った生徒手帳を手にしている。

「私の名前は水鳥ももこ。部長だ。突然だが、君には我が部に入ってもらう」

「我が部!?」

「そう。朱乃!」

 そう言ってももこが指を鳴らした。それと同時に、壁のスクリーンに地図が投影される。

「それではこれより、当『量産部』の活動について説明いたします」

「りょうさん部?! なんですかその怪しげな部活!」

「だから今から説明するのだ」

「ちなみにこの説明にはKGBの最重要機密も含まれているので、退部者はスパイと見なされ処分されます」

「処分?! なんで?!」

「では説明を…」

「いや聞かないよそんな怖いの! というかなんでこんなことになってんですか! 理不尽ですよ不条理ですよとにかくこの手足を解いて…」

「朱乃」

 ももこの言葉を聞くと、朱乃は無造作に聖一に近寄り腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。

「ぐふは!」

 おとなしくなった聖一を確認すると、朱乃は再びスクリーンの前に戻った。

「それでは、説明を始めます」

 聖一はぐったりしたが、朱乃は気にもとめない。

「『量産部』とは、17世紀後半ヨーロッパの貴族たちの間で当時流行したドンペリに砕いたメガドライブを混ぜて飲む健康法を起源にもつ部活動であり……」

 新入生の意思(と意識)を他所に、量産部説明会が始まった。



━13時間後。

「……つまりジョニーの茄子はファミ通のクロスレビューでも殿堂入りを果たすほどのCGであり……」

「あの……」

 終わる様子のない朱乃の説明に、聖一はついに口を挟んだ。

「なんだ貴様。朱乃の説明会を邪魔するな」

「いや…いつ終わるんですか? これ」

「もうすぐ第一部が終わる。ちなみに全三部構成だ」

「長いよ!もっと短くまとまんないんですか!?」

「むう……わがままな奴だな。仕方ない」

 ももこが再び指を鳴らす。スクリーンの映像が消えた。

「私が手短に説明してやろう」

「ももこ様自ら!?」

「いや、そこは驚くところではないでしょう……」

「いいか聖一くん。我が『量産部』の活動内容は唯一つ! ズバリ『量産』だ!!」

「『量産』!?」

「……以上!!」

「短!!」

「君はいままで、何かに対し『足りない』と思ったことは無いか?食事の量が少ない、限定版のCDが買えない、カップ麺のお湯が足りない……」

「いや特に」

「あるだろう! これだけ物が氾濫している現代社会においても、足りないものがこれほど多い! 『量産部』はその由々しき事態を打破するために創立されたのだ!」

「……さっきまでの13時間の説明はなんだったんですか?」

「というわけで、入部してくれるな? 聖一くん」

「いやです」

 聖一はきっぱりと拒否した。

「……そう」

 意外にも、ももこはそこで説得を諦めた。聖一にとっては嬉しいことである。が。

「仕方ない……朱乃、どうしたらいいと思う?」

 その言葉を聞いた朱乃が、待ってましたとばかりに懐から注射器を取り出した。

「ご安心くださいももこ様。こんなこともあろうかと地下工場で自白剤を量産しておきました」

「でかしたわ朱乃!」

「ちょ! それ用途間違ってるから!」

 注射器を手に取ると、ももこはゆっくりと聖一に近寄リ始めた。

「安心しろ聖一くん。両親には勇敢な戦士だったと伝えておこう」

「死ぬこと前提ですか!?」

「あと、あなたには黙秘権があります」

「ねーよ!」

 命の危機を感じた南聖一は、入部届けに名前を書くしかなかった。



「というわけで、廃部の危機だ」

 聖一の参加した最初のミーティングで、部長・水鳥ももこは開口一番そう言った。

「早速ですか」

「校則では部の存続に最低五人必要。しかし入学式直後のスタートダッシュに失敗した我が部は新入生を取り逃がしてしまった……」

「スタートダッシュが問題ではないような気がしますが……」

「廃藩置県部ですら八人も入ったのに……」

「それって何をする部活なんですか?」

「そこで、いまだ未所属の君の情報を聞きつけ見事拉致……じゃなかった、勧誘に成功したというわけだ」

「やっぱ拉致だったんですか」

「しかし最低限必要な五人にはまだ遠い……しかし我が『量産部』を廃部にするわけにはいかない! そこで私は考えた!」

 ビシ!っとももこが聖一を指差しす。

「君、分裂しなさい」

「無理です」

「すばらしいお考えですももこ様」

「だから無……」

 否定する聖一の鳩尾に、朱乃が強烈な一撃を叩き込んだ。

「それでは始めるわ…朱乃、準備を」

「はいももこ様」

 こうして、「南聖一量産化計画」はスタートした。




  (つづく)  


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