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ネコ型ももこ量産部
第2話
text 十七尉 / Illust あさのむつき

「………は!」

 何処からとも無く聞こえてくる金切り音に気づき、聖一は目を覚ました。

「って前にもこんな経験が……うわ!?」

 目の前にチェーンソーを持ったももこが立っている。

「もう目を覚ましたのか」

「な、なんでチェーンソー?」

「ちょっと君を三分割しようと思って」

「死ぬよ!」

「君が三人いれば我が部は存続できるのだ」

「その計算おかしいでしょ! もっと別の方法考えましょうよ! 主に平和的な!」

「そうか……なら仕方ない。朱乃!」

 ももこがそう言うと、部屋の明かりがつけられた。

「……!」

 初めてまともに部室内を見た聖一は、言葉を失った。そこには、コンピュータ関連に疎い聖一でも一目見て判るほどのハイテク機器が並んでいた。

「ふふ。今の時代、量産といえば電子制御。このくらいの設備は当然です」

「量産以外にも使えそうじゃないですか!」

「そう。校内に仕掛けたトラップの遠隔操作だって可能だ」

「その時のために地下工場でTNT火薬の量産もしておりますももこ様」

「ふ……他の部を脅す事も思いのままだな」

「もっと平和的な発想は出来ないんですか?! でもすごいですよ! これならどうとでも出来るじゃないですか!」

 興奮した聖一は、コントロールパネルらしき物に手を伸ばした。

「!」

 その手を、ももこはすばやく掴んだ。

「ダメだ聖一くん無闇に触れては。危険だ」

「危険?」

「ああ。攻撃はもちろんのこと、このコンピュータは防衛にも長けている。中には自爆ボタンなんてものもあるんだ」

「自、自爆ですか?」

「ああ。万が一にも押してしまえば、量産部部室は廃墟と化す。危険なボタンだ」

「そんなに危険なボタン……」

「危険なボタンだ」

「どのボタン?」

「このボタン」

 ポチッ。



 20XX年━量産部はTNTの炎に包まれた!

 だが……部員たちは死滅していなかった!



 ……廃墟の中、立ちすくむ三人の男女。

 朱乃はその場に崩れ落ちた。

「ああなんてこと……部室が全壊してしまうなんて」

「全く……一体何故こんなことになってしまったのか」

「あなたでしょうに……」

「……まあ過ぎてしまったことは仕方ない。聖一くん、悪いが職員室まで行ってきてくれないか?」

「職員室?」

 ももこが瓦礫の中から消し炭を拾い上げる。

「君の入部届けが灰と化してしまったのだ。新しい紙を取ってきてくれ」

「……」

「頼んだぞ。迷わぬようにな」



 そして、校舎内の廊下。

「……迷った」

 聖一は迷子になった。入学したての者にとって、やたらと広い校舎は迷路のようである。

「職員室、この辺りだと思うんだけど……」

「お困りでありますか?」

 突然、どこからともなく声がした。

「だ、誰?どこから……」

「ここです」

 窓の外に少女が立っている。軍服にヘルメットという、特異な格好をした少女である。

「……誰?!」

「自分の名前は鷺沼仁美。見ての通り、匍匐前進中の保健委員であります」

「保健委員!?」

 どう見ても保健委員には見えない。

「あなたのお名前は?」

「え……えと、南聖一です」

「聖一殿か。職員室に何か用でありますか」

 仁美が窓枠を跨ぎながら言った。

「あの、入部届けを」

「入部届け? 各部に配られているはずでありますが……」

「えと、えー……部室が爆発して……」

「? よくわからないでありますが……ついでなので、自分が取ってくるであります」

「ついで?」

「保健室もすぐ隣にあります。自分は、その保健室に用事があって来たのであります」

「保健室?具合が悪いようには見えませんが……」

「いえ、自分『軍医部』の部長もしているであります。それ故包帯等を分けてもらいに」

(……また活動内容の見えない部だな……)

「では、待っているであります」

 そう言って、仁美は職員室へ向かっていった。

「……」

 聖一はふと、廊下の窓の外を見た。校庭の隅に、廃墟となった量産部部室が見える。

「……」

「聖一殿?」

「あ」

 入部届けと包帯を持って、仁美は聖一の前に立っていた。妙に速い。

「どうしたでありますか。調子が悪いのなら言うであります。保健室はいつでも開いているであります」

「いや、大丈夫ですけど……でも保健室と職員室、見つけにくいですよね」

「次来るときも道に迷いそうでありますか?」

「う〜ん。そうかも」

「では、これを」

 仁美は聖一に水性マジックペンを渡した。

「?」

「これで、壁に小さく目印を書いておくといいであります」

「ああ、なるほど」

 言われた通り、壁に小さく目印を書く聖一。

「それと、このメモ帳に地図を描いておくといいであります」

「ああ、なるほど」

 言われた通り、メモ帳に地図を書く聖一。

「それから、この入部届けに名前を書くといいであります」

「ああ、なるほど」

言われた通り、入部届けに名前を

「……ってあぶねえええええええ!!」

 間一髪の所で聖一は入部届けを破り裂いた。

「あ……危なかった! なんてことを! 僕をその『軍医部』とかいうわけのわからない部に引き込むつもりだったんですね!」

「く……! なんたること……!」

 仁美はその場に膝を突いた。

「見破られるとは……万策尽きたであります。もはや『軍医部』は廃部となるしか……」

「……廃部?」

「そう……平和な学校内でも戦場さながらの緊急医療が受けられることを売りに始めた当部でありますが……」

「早速そこから意味不明なのですが……」

「ところが、当校の保健室には天才外科保健教師・B.ジヱイ氏が常駐しているため誰も『軍医部』を利用せず……やりがいのない部に人は集まらず部員は自分ただ一人……」

「そうか……それで僕を」

「今更一人入ったところでどうにもならないというのに……ふふ……しかし、最期の時を聖一殿のような者と迎えられたことは……光栄で……あります……」

 そう呟くと、仁美はゆっくりと瞼を閉じた。

「そんな……仁美さん? 仁美さああん!」

 聖一は叫んだ。廊下中に響き渡る大きな声で叫んだ。

「彼女を死なせはしない」

「は!」

 振り向くと、いつの間にか聖一の後ろにはももこが立っていた。

「部長!」

「帰りが遅いと思ってきてみれば……」

 ももこは仁美に近づくと、彼女にそっと手を触れた。

「ダメだ君、この程度の事で諦めちゃ」

「う……あなたは……」

 仁美は目を開いた。

「部員が足りないのがなんだっていうんだ……それくらい、私が相談に乗るというのに」

「そんな……見ず知らずの方になど……」

「そんなこと気にしないでもいいんだ。部員が欲しいなら、聖一くんを何等分にでもしてあげていいんだぞ?」

「え?僕ですか?」

「そんな……こんな私なんかのために……」

「当然だ。困ったときはお互い様だろう?」

 その言葉で、仁美はボロボロと泣き出した。

「うう……恐縮であります……く……!」

「全く……軍人が人前で涙を見せるものではない」」

 ももこは制服からハンカチを取り出し、仁美に差し出した。

「ほら、このハンカチで涙を拭いて」

「うう……ありがとう」

 言われた通り、ハンカチで涙を拭う仁美。

「ほら、このティッシュで鼻水拭いて」

「うう……ありがとう」

 言われた通り、ティッシュで鼻をかむ仁美。

「ほら、この入部届けに名前を書いて」

「うう……ありがとう」

 言われた通り、入部届けに名前を書く仁美。

「……」

 こうして、『軍医部』は『量産部』に吸収された。




  (つづく)  


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