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ネコ型ももこ量産部
第3話
text 十七尉 / Illust あさのむつき

 プレハブ小屋として生まれ変わった量産部(兼軍医部)部室。

 ハイテク機器の配備こそ出来なかったが、地下工場は無事らしく、量産部としての活動はすぐに再開できた。

 その部室での最初のミーティング。

「ついにこの時が来た!!」

 突然、ももこが大声を出した。

「? なんですか部長、いきなり……」

「来たのだ……いつかは来ると思っていたが、我が部の防衛システムが脆弱化したとみるや早くも果し状を叩きつけてきた!」

 ももこがその果し状らしき紙を手に持っている。

「誰からですか?」

「奴だ……」

「奴?」

「そう……我が『量産部』最大のライバル……『販売促進部』だ!」



 校門前。少女が地面に手をつき、何かを探っている。

「地面にブービートラップはなし……校舎に足を踏み入れてもロックオン警告は作動せず……間違いありませんわ……『量産部』は今、弱体化している!」



 再び量産部。

「彼女の名前は鳳凰院千夏……かの有名な鳳凰院財閥の令嬢にして販売促進部部長」

 ももこが、いつにない調子で話している。

「因縁の始まりは10年前……彼女と私は、二人で仲良く遊んでいた。その頃は、ちょうど鳳凰院グループがネコ型ロボの開発に着手した頃……そこで私は彼女に言った。『君の会社のネコ型ロボットと私のネコ型ロボット、どっちが強いかな?』、と」

「てか部長、ロボット持ってたんですか?」

「無かったから、本物のネコにダンボール被せてた」

「……」

「結果、彼女のネコ型ロボットは見るも無残な姿に……それ以来、それを逆恨みした彼女に因縁をつけられ続けている」

「いや、それ部長が悪いでしょうに……」

「その通りですわ新入生!!」

 どこからともなく、甲高い声が響いた。

「この声は!」

 ももこは部室を飛び出した。つられて、他の部員達も部室を出る。

「出てこい千夏! どこにいる!」

「ここですわ」

 ももこたちが振り返る。部室の屋根の上に、一人の少女が立っている。

「千夏!」

「あれが…ですか?」

 制服の上にコートを羽織り、ステッキを持った、まるで王様のような格好の少女である。

(……また変なのが増えた……)

 聖一は心底ウンザリした。また自分が彼女らの相手をしなければならないと思うと、それだけで疲れてくる。

「ふふ、相変わらずだな千夏。そのカシミアの靴下…カシミアの手袋……カシミアのコート……カシミアのステッキ……」

「ステッキもカシミア?」

「何の用!? あなたはここに来る理由がないはずよ!」

「無いわけありませんわ!」

 千夏が屋根から飛び降りた。

「あなたが仕掛けたトラップの数々のせいで私は今年度全く部活動が出来なかった! というか学校内に入れなかった! おかげで新入生勧誘ができず販売促進部は廃部寸前ですわ!」

「ふ、何を寝ぼけたことを! 新年度の校内が戦場と化すのは毎年のこと! 我が部はきちんとハーグ陸戦条約に乗っ取って活動していた!」

 ハーグ陸戦条約……聖一にはなんのことだがわからなかったが、ももこはきっと守っていないであろうことは自身の経験で感じとれた。

「ええい問答無用! とにかくこの責任とってもらいますわ!」

「責任たって、もう過ぎてしまったことをどうしろと?」

「決まってますわ。勝負よ!」

「勝負!?」

「そう! あなたが勝ったら今までのことは水に流してあげますわ。しかし私が勝ったら……」

 千夏が、聖一に目を向ける。

「そこの新入生を頂きますわ!」

「な!」

「なんで!?」

「当然。あなたの妨害のせいで私の部には新入生がいない……ですから、あなたの部の新入生を頂くのはなんらおかしくありませんわ」

「僕の意思は?」

 聖一の言葉を無視し、千夏は話を進める。

「そうね……ちょうど鳳凰院グループの新商品も試したいことだし……『ネコ型ロボット』で勝負ですわ!」

「ネ……ネコ型ロボットだと?!」

 その言葉にももこは戦慄した。

「そうですわももこさん。元はといえば、あなたと私の因縁もネコ型ロボットから始まったこと! 妥当な考えですわ!」

「く……しかしそうは言っても……どう勝負する気?」

「決まってますわ。あの決闘法よ!」

「あの決闘法……? まさか、あの伝説の!!」

「そう! 志楼北高校伝統の『暗黒メガドライバー』で!」


 ※暗黒メガドライバーとは?

 暗黒メガドライバーとは、志楼北高校初代学長の考案した決闘法。当事者達のその日の気分により対決方法や勝敗を柔軟に変えることの出来る画期的な決闘法だ!
 志楼北高校の歴史上26人の生徒が経験し、内18人は後にPCエンジンを購入したと言われる恐るべき決闘法でもある。



「現在在籍中の生徒に経験者はいないはず……そんな恐ろしいことを……」

「そうかな……」

「あら怖気づいたのかしらももこさん?」

「な、そんなことはない! 受けて立つ!」

「ふふ、いいですわ。勝負は明日のこの時間、この場所で! それまでにネコ型ロボットを用意しておくこと! いいですわね!」

 そう言い残し、千夏は去っていった。



 量産部部室。いつもは元気なももこが、珍しく沈んでいる。

「なんてことだ……」

「そんなに恐ろしいことですか?」

「聖一くんは知らないから……鳳凰院グループのネコ型ロボットの性能を」

「ネコ型ロボットって、あのネコ型ロボットですか?」

 いわゆるドラ○もん。

「いや、それの製造は22世紀の予定だから。今21世紀だから」

「あ、そうですか」

「ああ。いわゆるAIBOのようなものだけど、鳳凰院の技術は群を抜いている」

「なにしろ、市場シェア99.4%ですからね」

「噂に聞くだけでも恐ろしい性能であります」

「そう……それで朱乃、例のプロジェクトは?」

「それが……」

 朱乃が深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんももこ様!大変努力はしたのですが……部室全壊等のトラブルもありまして……!」

「……失敗か」

「失敗?」

 ももこの言葉を、聖一は聞き返した。

「我が部独自のネコ型ロボット生産計画を立てていたんだ。このときに備えて。しかし……やはり無理だったか」

「申し訳ありません!申し訳……」

「いいんだ朱乃。君はよく頑張った……しかし……我が量産部も、もう終りかもな……」

 いつもは自信家のももこが落胆している。それだけ千夏が強い相手だということなのだろうが、聖一にそれはわからない。

「ら……らしくないですよ部長!諦めるなんて!いつもみたいに余裕かましてくださいよ!がんばらなー!がんばらーにゃー!」

「聖一くん……」

 聖一にとってこれは死活問題である。これ以上他の部に振り回されれば、本当に命を落としかねない。負けるわけには行かないのだ。

「そうね聖一くん。私が間違ってたわ。諦めちゃダメよ!」

「そ……その意気ですももこ様!」

「自分も協力するであります!」

「部長!」

「偉大なる先人達も言っていたものだ。『諦めるな』『諦めたらそこで試合終了だ』って」

「そうですよ!」

「信じればきっと夢は叶うと」

「そうです!」

「私の愛読書、『走れメロス』にもこんな一文が書かれている」

 ももこは文庫本を開き、言った。

「『吾輩は猫である』……と」

「それは違う!」

 まさに、猫の手も借りたいといった部内の様子を如実に表している名文であった。


  (つづく)  


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