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虹色ミッション 第3話
text こみやま蘭子 / Illust 博海城
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手洗いから戻り席に座ろうとした時、僕の嗅覚は機内食の異変を察知し、拒絶した。
「ルックさま、これは…」
チェルシーはそう言って顔をゆがませ、激しく咳き込み始めた。
「チェルシー! 口をつけたのか!?」
彼女は先に食事を始めていたのだ。周辺の客のトレーからは何も匂ってこない。僕らを狙って誰かが薬を盛ったに違いない。
しまった! ごめんなさい、おねぇさまっ!
僕は、チェルシーを引きずるようにトイレに運び、全部吐かせようとした。だが、彼女の背中をさすろうとしたとき、背後に立っていたキャビンアテンダントが耳元で囁いた。
「解毒剤、あげましょうか?」
振り返るとそこには、白人の大女が立っていて、服こそキャビンアテンダントのものを着用していたが、髪色は赤いオカッパ頭。僕を見下ろし、蛇のような目つきでニヤリ。
「きさま…デスパスタか?」
「三姉妹の次女・ロンよ。私はバズーカで吹っ飛ばされた妹みたいな過激派じゃないわ。三姉妹きっての穏健派。解毒剤は黒い恋人と引き換え。おとなしく渡してくれれば、そのお嬢ちゃんは助かるし、騒ぎにもならない」
「さっきのスパイシーや爆弾もおまえか?」
「まあね。でも、解体されるのは予測してたわ。あれは罠。似たようなカップルがたくさんいたからね。ターゲットを正確に把握したかっただけ。まんまとひっかかったわね」
トイレに伏せたままのチェルシーが、激しく首を横に振った。
「ルッ…さま…言うこと聞いちゃ…だめ」
次の瞬間、僕はふりむきざまにロンのみぞおちに拳をブチこもうとした。だが、相手は狭い通路でもヒラリとかわし、反対に僕の手をつかんで、グッとねじり、しめあげた。
「くっ! 」
ロンはクワッと目を見開き、手のひらをかざした。見る見るうちに、5本の爪がぎゅーんと伸び、僕の目の前で刃物のようにギラッと光った。ロンは僕の耳元で、
「坊や、若いのに優秀なのね。でも残念。私、けっこう強いのよ」
「なにが穏健派だ。バリバリの武闘派じゃねぇか…それに」
「それに?」
「さっきから息が臭ぇんだよ、ニンニク女」
「ぐっ…喉元を掻っ切ってあげようかしら」
僕はロンの手を逃れようともがいたが、すごい怪力ではずせない。そのまま、チェルシーの隣の個室にひきずり込まれた。
「これで見つけられない。助けは来ないわよ。隣のお嬢ちゃんにも時間がない。さあ、言いなさい。黒い恋人はどこ?」
すると、トントンとノックする音。続いて、
「お取り込み中失礼いたします。ここを速やかに開けてくださいませ」
「やっぱり来たね、あの青い女?」
そう言ってロンが少したじろいだ瞬間、僕は緩んだロンの手に勢いよく噛み付きそれを振り解いた。
扉を開け飛び出した僕を、黒髪をロングボブにし上下ピンク色の道着…という出で立ちの少女が受け止めた。
「無事でございますか?」
続いて飛び出してきたロンが、その少女に襲いかかった。だか、ロンの体がスローモーションのようにゆっくり宙を舞い、次の瞬間、廊下に激しくたたきつけられた。道着の少女はすかさず背後に回って首に絞め技をかけ、あっという間にロンを気絶させてしまった。ほんの数秒の出来事だった。ロンは、しゃべる間さえ与えられなかった。
「ルック殿、おケガはありませんか?」
僕はあわててチェルシーがいたはずの個室を覗き込んだ。空っぽ。
「わたくし、小枝(こえだ)と申します。以後お見知りおきを」
小枝は赤いポーチを頬の辺りにかざし、にっこり笑った。この子も…かわいい。
「三人目がいたのか…」
もう驚かなかった。どの子も美形だし、頼もしいし。何より、今回の僕は、やっぱりあくまでも彼女(たち)の補佐…へこんだ。
「チェルシーは?毒は大丈夫なのか?」
「はい、すっかり吐き出してしまいましたわ。それに、代わりの者が出てくれば、さらに影響は分散され回復が早くなるのです」
「なるほど」
と、気絶しているロンを見、再び顔を上げると、小枝はクールミントに変化していた。
「わわっ! びっくりしたぁ!」
「相手は完全にこちらの動きをつかんでいるわ。学生カップルを続けるのはもう無駄だし、危険。ここは裏をかきましょう。すぐにカールに連絡をとって、作戦変更よ」
「は、はいっ! おねぇさまっ」
OSMY東京支部へ電話。カールへクールミントからの伝言を伝えた。
「OK! お安い御用さ。すぐに手配する」
30分後。
僕は赤毛のガーナと二人並んで、パラシュートを背負い、飛行機の扉の前にいた。
「準備はいいかい?チビるんじゃないよ、坊や」
笑いながら、僕の頭を小突くガーナ。
「あのね、僕だってエージェントだよ。3年連続でOSMYの超デリシャス賞を…」
「わかったわかった、うるさい子ね」
「それにしても…カールはちゃんと依頼のものを調達できたのかなぁ?」
「ミスド諸島なら、今はもう実戦で使われてないヤツがあるはずだよ。さ、そろそろ諸島の真上だ」
ガーナが合図すると、飛行機の扉がガーッと開かれた。目の前は雲の海。
「よしっ! 先に行くよ」
そう叫ぶと、彼女は勢いよく外へ飛び出した。続いて僕も。
どれくらい降りただろうか。先に飛んだガーナの姿を確認できないまま、海に落ちた。西の方に小さく陸地が見えた。だが、泳いでいくには遠すぎる…そんなことを考えていると、一機のヘリが近づいてきた。
カール? いや、島とは反対の方角からだ。
すると、ヘリからダダダダダッ! と、いきなりマシンガンが炸裂! 僕の真横に着弾し、いくつもの大きな水しぶきを立てた。
「くそっ!! やつらか!」
ヘリから、白いオカッパ頭が乗り出し、
「もう逃げられないわよ」
「おまえが最後の一人か?」
「ええ、チーノよ!」
髪だけじゃなく、全身純白タイツのチーノ。すごく小柄で痩せていて、骨が浮き出ている。一番強いんだろうが…一番マヌケに見える。
再びダダダダッ! よけきれず、火がついたような痛みが左肩を走った。
「くっ! 肩をやられたか…」
「血の匂いですぐにサメがやって来るわよ。観念して、こっちへ上がってきなさい」
ヘリからロープが降りてきた。右手でロープを握る。だが…
かすかに聞こえてきた音を察知し、遠い空を見上げた。呆れ顔で、僕を嘲笑うチーノ。
「どうしたの? 血、どんどん出てるわよ。時間ないんじゃないのー?」
僕は、一度はつかんだロープを離した。そして、向きを変え一心不乱に泳ぎ始めた。激痛と流れ出る血。意識が遠のく。が、一刻も早くここから、ヘリの側から離れなければ。
「時間かせいでいるの?それとも死ぬ気?女の方だって、見つけるのは時間の問題よ」
「ああ、彼女にもすぐに会えるよ」
そう、彼女はもう来ていた。オレンジ色に染まった西の空。そこに、チェルシーが…
チェルシーの操縦する戦闘機・F−4ファントムが、大輪の夕日を背にやってきた。
チーノが気づいたときは、すでに遅かった。ヘリはあわてて上昇したが、しょせん竜とミミズのようなものだ。F−4ファントムはチーノのヘリをたやすくロックオン。チェルシーの叫びが聞こえた。
「よくもぉぉールックさまをーー!」
そして、GO!
シュルルルー! ミサイルが海上を走る。
ズカーーーーン!!!
ヘリは木っ端微塵。海の藻屑と消えた。
ロンドンの病院。手術室を出たばかりの僕の顔を、チェルシーが心配そうに覗き込む。
「ルックさま…」
「君の顔見たら、痛みも疲れも吹っ飛んだ」
チェルシーは目を潤ませ、僕の手を握った。
「で、黒い恋人は?」
「ちゃんと博物館に届けました。デスパスタも完全に手を引いたみたいです」
「大したことなかったね、ペペロンチーノ」
「そうですね」
チェルシーはクスクスと屈託なく笑った。胸がキュンとなり、切ない痛みが肩まで走る。
「私、次の任務ですぐにパリに向かいます」
「わかってる…寂しくなるな」
チェルシーは突然顔を近づけ、横たわっている僕の頬にキスした。驚いて見上げる僕に、
「みんなが元気でね≠チて、言ってます」
凛々しくグラマラスなガーナ。キレものお姉さまクールミント。強く愛くるしい小枝。そして…
「ありがとう。このミッション、忘れないよ」
忘れないさ。
二人で乗ったF−4ファントム。薄れていく意識の中で、ピットから眺めた金色の太陽と、チェルシーの髪の甘い香り。
その頃、クランキー伯爵はクライアントからのメールを開き、カールを呼びつけていた。
「次はこれを持ってってちょーだい だって。見てみて〜これまた綺麗よぅ」
画面には添付された写真。写っているのは、大きな青いサファイア…青福
−−−完
(*この作品には、物語を盛り上げるため、ジェット旅客機からのパラシュート降下など実際には無理な描写がいくつか含まれています。危険ですので絶対に真似しないでください。)
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