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ノベル・クライシス
第3章 全ては幼女のために
text 嘉村健 / Illust きなりみや


 

 秋葉原……電化製品と趣味の世界が交錯する街……オタクにとっての聖地……そこは断じて幼い子供が行くような所では決してない。とくに視雨にとっては……

「子供をこんな所に連れて行く大人が何処にいる! 視雨にとってここは危険地帯だ! だいたい視雨は……」

 路地で行き交うリュックサックを背負う者達に物珍しそうに見る視雨。

「良いじゃないですか……秋葉原には子供が欲しがるグッズも売ってますし……入る店さえ間違えなければ大丈夫ですよ……って、なにをやってるんですか?」

 正一郎は視雨の目を両手で覆い、きょろきょろと辺りを見回す。

「奴の特異能力を知らないからそんな事が言えるんだ……視雨は目に映った文字を瞬時に記憶する……つまり小説を開いて2ページに目に付いたら2・5秒の速さで全ての文章を読める」

「いくらなんでも……ウソですよね?」

「ウソじゃない……視雨以外にもそういった能力を持った人間は稀に存在する……例えばその人にとって文字の重要な部分だけが赤く見えたりする人間もいる」

「でも、本を見せさえしなければ大丈夫なんじゃ……」

「文字を瞬時にインプットできると言う事は……視雨が目に付いたライトノベル小説やおかしな漫画の文字を何かしら事故で見てしまったらどうなると思う」

「商業誌で売っているレベルではそんなに……あっ!?」

「秋葉原は聖地だ……商業誌のレベルでは通用しない……視雨は幼女でもIQ200以上の知能指数だ……簡単に理解できる」

「先生……ところで視雨ちゃんは?」

 路上を歩く正一郎の前には視雨の姿がいつの間にか無い。

「まさか……」

 正一郎から少し離れた所で、横断報道を歩くリュックの男達と混じってとことこ歩いているのが見えた。

 通りすがりの男が紙袋を落として数冊の本地べたに落ちる刹那……視雨の目に文字が映り、記憶される2・5秒前に正一郎の身体が遮る。

「離れちゃ駄目だろ」

「だっておかしな看板が見えたの……おじちゃんドウジンシってなに?」

 凍りつく正一郎。

「さてなんだろうね……」

「じゃあ、お姉ちゃんと一緒にメイド喫茶行こうか」

 視雨の手を引っ張り、よからぬ店に連れ込もうとするメイド編集長をブロックする。

「私の甥の娘にどういう教育をさせる気だ!」

「女の子の憧れと言えば、メイドさんですよ」

 その時、男がつまずき、開きっ放しだったのか、リュックから多量の雑誌や本を道端にばら撒く。

「あの本……」

 視雨が脳に文字をインプットする前に正一郎キーパ顔負けのブロックで、視界を遮る。

 そのナイスブロックもつかの間、強い風が吹いてチラシを配っていたメイドが数枚のそれを飛ばす。

「あれ……?」

「ぬわあ!?」

 正一郎は棒高跳びの要領で、見事に風で舞うチラシに身体を重ね合わせた。

「おじちゃん……すごい」

 正一郎は数枚のチラシを掴むと、おもいきりアスファルトに背中を強打させた。

「ぐはあああっ!?」

 血を吐く正一郎に亜由美は思わず呆れ顔になる。

「先生……何もそこまでしなくても……」

「亜由美、ここは危険だ……帰るぞ!」

「来たばっかりなのに……」

「そうですよ……まだメイド喫茶が……」

 その言葉に正一郎は立ち上がり、亜由美の肩を掴む。

「私の身体がボロボロなってもと言うなら構わんが……その変わり、小説が書けなくなっても良いのならな」

「え〜と……それじゃあ、近くのビックカメラにしますか」



 こうして幼い少女の未来を救う事ができたが……その犠牲は大きかったようだ、視雨はふてくされた顔をしている。

「視雨、どうしてそんな顔をしている……こうしてちゃんと遊んであげたろ」

「だって……見せたい物をぜんぜん見せてくれないだもの」

 視雨は苛立ちを隠しきれないのか、正一郎の部屋のドアを荒々しく開ける。

「こうしてぬいぐるみも買ってあげたろ」

「私はおじちゃんの本を見たいの……ドウジンという物を知りたいの……どうして見たりしては駄目なの?」

「いっそのこと見せちゃったりしたらどうです」

 横から笑顔で顔を出し、小声で言う亜由美。

「馬鹿か……だいたい視雨は12歳だ……ただでさえR15やらR18やらの本やゲームでさえ規制があって、少女漫画では過激な描写があって訴えるられるケースもある……これはあくまでも自分の身と彼女の将来のためだ」

「おじちゃん……このスイッチなに?」

 視雨は壁にあったスイッチを指差していた。それは間違いなくラノベと純文学の本棚を入れ替えるスイッチだ。

「視雨!? それは押すな!」

 正一郎はダイビングで飛び込み、止めようとするが、それよりも早くスイッチは押され、壁が回転して本棚が入れ替わる。

 スイッチが押すことができず、壁に激突する正一郎。その衝撃によって本が崩れ落ち、本が次々と開かれて、床に落ちる。

「えっ……これって……」

 数秒の間に視雨の頬がみるみるうちに赤く染まっていく。

「み、視雨……!?」

「おじちゃん……これ借りてくね」

 視雨は開かれた一冊の本を拾い上げた。

「やめろ! それは私が書いたメイドデスティニ―ではないか!? それはお前に早い!」

「そんな……」



 

 

 その後、視雨はライトノベル読みふけるようになり、コスプレが趣味になったという……。


  (終)  


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