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死神課・業
第1話
いざぁ(text) ELIOT(Illust)



 壁も床も綺麗に磨き上げられ、最新のOA機器に囲まれた広いオフィス内。しかし、そこで働く者たちは皆、黒いぼろぼろのマントを頭からかぶり、様々な動物のドクロのマスクを付けた死神達であった。そう……ここは天界の死神課と呼ばれる部署である。今日も何本もの電話が鳴り響き、電話の応答に追われる者、書類整理に追われる者など、死神達は意外と機敏で勤勉に働いていた……。

 この物語は、この世の生き物の魂を、すべて刈り取る霊界の死神課と呼ばれる部署で働く、死神達の物語である……。

「はい!死神課9課でございます ……時雨(シグレ)課長ですか?はい!ただ今お繋ぎ致しますので、少々お待ちください」

「ハァ〜イ!お電話替わりました時雨です……マァマァ落ち着きましょう……ホォホォそれは困りましたねぇ……はっはっは!すべてノープレブレム せめてドラマティックにその者の魂をココへ導きたまえ」

 時雨は電話を切り、軽くため息をつくとイスの背にもたれ、右手で起用にペンを回しだした。そんな彼の前に書類の束を持った一人の死神が立ち止まった。

「課長……おねがいします」

「ん ご苦労シレン君 始末書はあっちに置いてくれたまえ」

 回していたペンをピタリと止め、方向を指す。そこには膨大な量の始末書の束が、積み上げられていた。

「……はい」

 死憐が指示された場所に始末書の束を持って行こうとした時、時雨は死憐を呼び止めた。

「シレン君 君は何年この仕事をしてるのかね?」

「……400年……くらいです……」

「……で、何歳になるのかな?」

「……人間の歳で言うと25くらいです」

「HO!僕より年上なのに年下じゃないか」

 両手を広げ、ため息をつく。

「僕たちの仕事は、霊界のコンピューターが指示した人間の魂を刈り取ってくればイイだけのハズ」

 イスに背もたれ、ペンを回しだす。

「僕たちがまじめに仕事をすれば、失敗しても成功率が80%なら、一年に1歳、年を取り、75歳で寿命を迎え、この仕事から足を洗えマスデス」

 ペンをピタリと止め、その先を死憐に向けた。死憐はコクリとうなずいた。

「普通どんなドジでも、150年もあればOKじゃなぁい?」

「はぁ……」

「マァ確かに僕たち9課は、短期間で魂を刈り取らねばならない制約はありまス」

「はぁ……」

「そのためには過去の因縁を持ち出して、事件事故にまきこましたり…… されど、未練は残さぬよう、身辺整理させたり……」

 時雨は両手を広げ、クルゥ〜リとイスを回す。死憐はそのスキに、目で天を仰ぐ。

「時には変な邪魔が入る事もあるし、僕らも情が移って切なくなる時もありまス」

「はぁ……」

「デモ僕らの仕事は、人間界においては自然の摂理だ 僕らは自然の一部にすぎない」

 時雨は死憐に向き直ると机の上にヒジをつけ、両手を組むと、その上にあごをのせる。死憐は目線を時雨に向ける。

「もし君がこの仕事がイヤでも、ヤル事をヤラねば終わらないのだよ シレン君?」

「……以後気をつけます 行ってイイですか」

「ああ、ソレをアソコに置いたらコレを持って、ただちにイキたまえ 期限は3日だ」

 時雨はCDの入ったケースを死憐の前に差し出す。死憐はゴソゴソと始末書の束を片手に持ち替え、差し出されたCDを受け取る。

「わかりました 期日までに必ず」



 真っ白で一寸先もよく見えない、霧のかかったような空間に死憐は立っていた。足下には小砂利がしかれ、かすかに川の流れる音とチャプチャプと水が石に当たる音が聞こえ、他は何も聞こえない静かな空間であった。死憐は少しイラつき気味に、しばらくその場に立っているとキィ……キィ……と、ゆっくりしたテンポで渡し船のカイを漕ぐ音が聞こえてきた。その渡し船は、死憐の前に止まった。

「だんなぁ…… 急ぎますかい?」

 渡し船の船頭は、すげ傘のふちをちょっと持ち上げた。その顔は人間のドクロで、船頭はボロボロの作務衣を着た骸骨であった。

「……昼くらいまでに頼む」

 死憐はCDを船頭に渡すと、船の真ん中にどっかりと腰を下ろし、マントの下からノートパソコンを取り出した。パソコンには、かわいらしいドクロのマークが付いていた。船頭は船の後ろにある機械にCDを差し込むと、舟は勝手に岸を離れ、何も見えないが進行方向であろう方向に船首をむけた。

「それじゃぁ、安全運転でめぇりやす」

 船頭はCDを死憐に返すと、カイをゆっくり力強く漕ぎだす。死憐はCDをパソコンに差し込むと、画面には水野真魅(みずのまみ)10歳。と、今回寿命を終える者の顔写真とデーターが出てきた。

「……まだ子供じゃないか……」

 大きく深いため息をつくと、パソコンをマントの中にしまい込み、船の先端に立つ。ドクロのマスクを外し、胸に掛けると悲しげな目で遠くを見つめた。その瞳は赤く、泣きはらした様に充血していた。

「ついてねぇゼ……」

「……? なんか言いやしたか? だんなぁ」

「……いや…… なぁ船頭…… この方角でいいのか? 間違ってないのか?」

「……イヤな仕事が回って来た時の死神さんは皆そう言いますが、今はどんなに小さな渡し船でもGPSは常識でさァ…… 寸分足りとも狂わず行きますぜェ」

「……俺達の仕事にイヤもへったくれもないさ…… や(殺)らなきゃ、いつまでも終わらないだけだ……」

 死憐は悲しげに微笑むと、うつむいた。

「あっしらも同じですぜ あの世とこの世の境界線、三途の川の渡し守…… 何人運んで何回往復すれば終わるのか、キリがありませんぜ」

「……ふっ、お互いロクな仕事じゃねぇな」

 薄く微笑み、船頭の方を向く。船頭は困った感じで両手を広げていた。

「ピーピーピー……」

 渡し船のGPSが、アラームを鳴らした。

「おっと 着きやしたぜ、だんな…… 後はココを真っ直ぐ行ってくだせぇ」

「ああ…… じゃぁ、3日後…… この時間に来てくれ」

「へい! じゃぁ、お気をつけて」

 死憐は船を降り、歩き出した。その姿は船頭からすぐに見えなくなった。死憐の前の白い霧が晴れた瞬間、死憐はとある街のビルの屋上に立っていた。そのビルはその街では高い部類で、街中を見渡す事ができた。そのビルの給水塔にふわりと飛び乗ると、腰を落ち着け、マントからパソコンを取り出した。死憐達は、この世では霊的な存在であるため、半透明であった。

「さて…… 始めるか……」

 ため息まじりで左手で輪を作り、口にあて、口笛を吹いた。するとどこからともなく、3

羽のカラスが死憐の元に集まって来た。

「ぐえぇぇぇぇ…… ガァー!ガァー!」

 カラス達は死憐をにらみ、不気味に鳴いた。死憐が指を鳴らすと、カラスの達の不気味な鳴き声が、しゃべり声に変わっていった。

「このビルのオーナーは、ホモなんだぜ」

「そんな情報はいらん それよりこの子を知ってるか?」

 パソコンの画面をカラス達に見せる。

「ああ、あの家の子だな?」

「ああ、その家の子だ!」

「今日は土曜だから、今頃は病院だな!」

「……病院?」

 死憐は一瞬眉をひそめたが、カラス達に案内させ病院に向かった。その病院は6階建てで3階からが病室となっていた。真魅は5階の大部屋に居る母親の病室にいた。真魅は学校指定のTシャツにジャージをはき、母親はパジャマの上に、薄いニットのカーディガンを羽織っていた。二人はベットの上に寄り添い、仲良く座っていた。その時間、病室にいたのは二人だけだった。

「今度の日曜日、直美ちゃんのお母さんがイチゴ狩りに誘ってくれたけど、行ってもいいかなぁ?」

「まぁ…… ご迷惑じゃないのかしら……」

「ねぇ〜行ってもいいでしょぉ〜」

「そうね…… そのかわり、お行儀良くするのよ」

「やったぁ!お母さんにも一杯イチゴもってくるね」

「うん 楽しみに待ってるね そうそう、伯母さんにも一杯採って来てあげてね」

「うん! お母さんにも伯母さんにもイィ〜ッパイもってくるね!」

 真魅は母親に抱きつき、はしゃいでいた。

「すまねぇ……その約束はナシだ……」

 二人の会話を病室の戸口で聞いていた死憐は、マユをひそめつぶやいた。

「……に、してもあの母親……も?」

 死憐は、真魅の母親、真希のベットの下に隠れる様に座るドクロの面を付けた死神が気になっていた。その死神は、死神特有の武器の大きなカマを肩に抱いていた。

「まさか……? な……?」

 死憐は胸に付けていたドクロの面を顔に付けると、病室に入って行った。その死神は死憐に気づくと立ち上がり、ドクロのマスク越しに威嚇の視線を死憐に送った。



   つづく
 

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