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教えて Tell Me!
第3話
text sie / Illust 園田逸明



 何度かの昼と夜が過ぎた……。

「お、おい……月原……?」

 昼休み、過度な減量をしているボクサー……もとい幽鬼……いや、真也くんにウガンダ先生が恐る恐る声をかける。

「ウ……ガン……?」

「……ヒッ!」

 ユラァ〜っと振り向く真也くんの、しかし爛々と光る眼光に歴戦の生徒指導が小さな悲鳴を漏らした歴史的瞬間であった。

「ナ……ニ……?」

「あ、明日の追試だがお前大丈夫なのか?」

「フッ……フフフッ……」

「……ヒッ!」

「お、俺の……闘いは、まだ終っちゃいない」

 真也くんは、どこかで聞いたような言葉を吐いて天を指して次の言葉を口にした。

「一分、じゃあねぇ……一日だ……あと一日でこの地獄から俺は開放される……ゲフッ」

 真也くん、更にどこかで聞いたような言葉を吐くと、受け身も取らずに倒れた。

「月原……今日は早退していいぞ」

 ウガンダ先生は生意気な生徒を屈服させるのは大好きだが、弱々しい生徒は、苦手だった。
 意識を無くしてどれくらいたっただろう?

 真也くんは、鼻孔をくすぐる花畑のような匂いで目を覚ました。

「お前ら……!」

 輝美と真由美にはさまれて川の字のまんなかの棒のようにピーンとした格好で真也くんは、寝かされていた。

 右はムチムチ、左はプニプニ。どちらも機雷みたいなものだ。

 慣れない格好で寝るからロクに寝られない。

 あの日から始まった悪夢のプチ合宿。女二人が意地を張り合って帰らないのでそうなってしまったのだ。

 ちなみに、四方田家では勉強のために輝美の家に泊まっていることになっているらしい。

「ふぅ……今日で……ついに今日で最後だ」

真也くんは、二人を起こさぬように寝床を抜け出した。

 しばらくするといつものように月原家の台所からは、朝食のいいにおいが漂いはじめる。

 体型的には真逆な二人だが、一つだけ共通点があった。それは、朝に弱い……だ。

 ここ数日で真也くんは、『女なんて……』ということを涙と共に学んだのである。

 真也くんが玄関から出ようとすると、ドタバタと朝食&身支度を済ませた輝美&真由美が、われ先ににと玄関へなだれ込む。

 ただでさえ体力と忍耐力を消耗している真也くんだが、三人で駅まで歩く。いい迷惑だ。

 いつも自転車で通る道ではなく両手に『花のようなもの』をブラさげて駅に通じる商店街に差し掛かったとき、事件は起きた。

「つーきーはーらー」

 商店街の入り口にズラリと他校の不良が並んでいた。

「月原ぁ……勝手に通学路かえんなヨ。今日こそは、無事に済まさねぇぞぉ」

 真也くん、ケンカは得意だし大好きだが、今日は待ちに待った追試の日。遅刻も怪我も許されないのだ。

「きょ、今日はパス……」

「ンだとぉ?」

「……だめ?」

「ッたりめぇだ! 覚悟しやがれ」

 怒声と共に迫り来る不良たち。

「……さがってろ」

 真也くんは、覚悟を決めて両手の荷物を振り払い、弱々しく構えた……。

 パヒュッ!

 一発のフラッシュに不良たちが動きを止めた。

 続けて四方田真由美がデジカメを手に叫ぶ。

「月原くんに手を出したら今の写真を各高校へ届けるわよ」

「グハッ……」

 不良の一人が倒れ込んだのを手始めに真也くんを取り囲んでいた第一陣が次々と倒れる。

「私の生徒に手を出したら許さないわよッ」

 輝美が、身長を活かして遊撃する。

「まだ何も……フギャッ」

 不良たちは、無抵抗で倒されていった。だって、『女と子供には手をあげない』からだ。

 真也くんは、悶絶した名も無き不良たちに心の中で敬礼するのであった。

 追試のために用意されたの教室では、ウガンダ先生の特別監視のもと、試験が始まる。

 遅刻せず学校へついた真也くんは、答案用紙が読めないほどに眠かった。

「おい月原、お前大丈夫か?」

 倒れまいと前後左右に揺れる真也くん。たまらずウガンダ先生が声をかける。

「せ、先生……」

「何だ? 保健室か?」

 ウガンダ先生の目に映る真也くんは、瀕死のチワワよりも弱々しい。

「努力と結果って……必ず結びつくものじゃないんッスね」

 真也くんは、勉強をそれは真面目にやった。勉強をしていないと真由美と輝美が、お互いの指導方法をめぐってケンカを始めるからだ。

 しかも真也くんを間にはさんで。だから答案用紙の問題を見ても真由美と輝美のムチムチやらプニプニが視覚的、感覚的に思い出されるばかりなのだ。

「追試……延期するか?」

 鬼の仏心が、垣間見えた瞬間だったが、

「もう……今日で……終らせた……い」

 心の中では血の涙を流していた。

「そうか……がんばれ」

 名前しか書かれていない真っ白な答案用紙。

真也くんは、このまま机に突っ伏して寝てしまいたいという誘惑に必死で抗っていた。

 その時、見えたのは……出会った頃の輝美の姿だ。真也くんが小学生の時、母親の陰に隠れるようにして引越しの挨拶に来た輝美の姿。

(……ここで寝てしまっては輝美が悲しむ)

 真也くんは、睡魔に抗うが上体がのけぞる。

 ガコン!

 突然、教室中に響く鈍い音。

「つ、月原……お前」

 ウガンダ先生が驚いて竹刀を取り落とす。

 真也くんが、机に思いっきりヘッドバットをかました音だった。

「あ〜。痛くて気絶するかと思ったゼ」

 何事も無かったように起き上がる真也くんだが、額からは派手な流血。教室は、そら大騒ぎ。

「保健室……いや救急車を!」

 明日の新聞の見出しまを想像してウガンダ先生が、とても慌てる。

「先生……」

 答案用紙を凝視していた真也くんが、呟く。

「な、何だ? どうした月原!」

「目が覚めても全ッ然わからないッス」

「そ、そうか……」

 気付けば流血は止まっている。ウガンダ先生もちょっとだけ落ち着きを取り戻したのだった。

 輝美と真由美は、その一部始終を教室の外から覗いていた。

 輝美は、授業を自習にして。

 真由美は、保健室へいくフリをして……だ。

 生徒を指導する立場の朝倉先生だが、真也くんが気になってすっかり『輝美』になってしまっている。

「つ、月原くん……大丈夫かしら」

「ん〜。あれくらいなら大丈夫だよ。もっと心配なのは……」

「……なんですか朝倉先生」

「石みたいに動かないでしょ。あの様子じゃ、何も憶えていないと思うの」

「あんなに勉強したのに?」

「……そういう子なのよ」

 真由美が、ヘナヘナっと座り込む。

「ちょっと、四方田さん大丈夫?」

「……朝倉先生は、月原くん留年してもいいんですか?」

 輝美、ちょっと考えて、

「良くないわよ! でも、ダメならまた来年に頑張ればいいんだもん」

「先生はそうかもしれないけれど、アタシは学年が違っちゃうの……絶対イヤッ」

「ねぇ……そういえば何で月原君のことが好きなの?」

 輝美の質問に真由美の顔がトマトのように赤くなる。

「前に痴漢から助けてもらって……その……」

 真由美の言葉に、輝美は思い出した。小学生だった真也くんが、輝美をいじめる相手に果敢に向っていく彼の背中を。

 いつも傷だらけだった彼が次第にケンカが上手になって怪我をしなくなっていった事を。

 輝美は、真由美の手を取って励ました。

「四方田さん……私たち、なにも出来ないけれどせめてここから応援しようね」

「……先生」

 二人が、再び教室の様子を覗こうと薄く開いた戸に手をかけた瞬間、戸が外れた。

 輝美と四方田は、バランスを崩し、絡まりあってとても淫らな状況を想像させるような格好で、追試をしている生徒たちの前に出てしまったのだ。

「一体全体、何をしとるんですか!」

 ウガンダ先生は、驚き、怒っていた。

「いったァ〜」

「いやぁ〜ん」

 絡み合う二つの女体、コケた痛みに歪む顔は官能的ですらある……尻、乳、太股の二乗。

「ブッ!」

 二人のその姿を観た時、真也くんの溜まりに溜まったストレスやら煩悩が、多量の鼻血となって噴き出した。

「つ、月原! 保健室保健室……救急車を!」

 再び慌てるウガンダ先生。

 しかし、真也くは片手で鼻を押え答案用紙に物凄い勢いで解答を書き始めた。

 そうなのだ。勉強中……その解は、輝美と真由美の尻、乳、太股と一緒にしっかり真也くんの脳裏に焼き付けられていたのだ。

 テストの最中。問題と尻、乳、太股が同時に存在したとき、真也くんの学習能力が稼動して次々と答案の解を導き出したらしい。

 カーンコーン・カーンコーン……。

 終業の鐘と共に追試の一つが、終った。


 × × × × × × × × × ×



 数日後、職員室前に張り出された追試試験の結果に三人が大喜びしたのは言うまでも無い。

 喜びすぎてウガンダ先生に、

「静かにしろッ! 進級を取り消すぞ」

 と、怒られたが、笑顔で、

「はぁい」

 と、良いお返事をしたのは余禄である。


  (おしまい)  


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