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WHITE SNOW
第2章 白いウサギ

嘉村健(text)  きよはる(Illust)


「なにやってんだお前…?」

「坊や……私を食べて良いのよ……」

「ついに頭おかしくなったか?」

 呆れる俺にうさ子はなぜか不思議そうにこちらを見る。

「男を誘う方法ではこうやれと書いてあるのですが……」

 うさ子が見ているそれはグラマーのお姉さん不埒な格好をした表紙の絵で、どう見ても二次元のエロ漫画だ。

「そりゃあどう考えてもフイクション作品だ! そんなテクニックがある訳ねえだろ!」

「違うんですか!?」

「当たり前だ!」

 今更ながら十八歳が見てはいけないというのが、うさ子の行動で分かったような気がした。

「じゃあ、どうすれば雄太さんは好きになってくれるんですか」

 涙目でこちらを向いてくるうさ子に俺は思わず溜め息をつく。本当に泣きたくなるのはこっちの方だ。

「お前……ここの鍵を持ってるか?」

「職員室からくすねてきたので、ありますよ」

 笑顔で鍵を見せるうさ子から俺はそれを奪い取ると、扉を閉めた。

「雄太さん……なにを?」

 俺はうさ子が扉に手をかける前に素早く鍵をかける。

「残念だなうちの体育館倉庫は外からじゃないと開けられないんだ」

「雄太さん!? ここを開けてくださいよ!?」

 扉を叩く音が聞こえるが、俺には知ったことじゃない。

「その中で考えれば俺がお前を好きにならない理由が分かるかもな」

「開けてくださいよ雄太さん!」

 体育館倉庫から離れると、うさ子の声がか細く聞こえる。

「倉庫の鍵は職員室に返しておくからな」

 これで少しは反省して付きまとうような事もないだろう。



 それからというもの……あいつはなぜか学校に来なくなった。三日連続で無断欠席らしく……担任の教師は腹を立てていた。

 まさかとは思った……ほんの些細な悪戯だ。あれぐらいの事で学校に来なくなるとは考えもしなかった。

 少し頭のおかしな娘だけれど、俺を好きだと言ってくれた
 不覚にもあいつの満面な笑顔が頭に思い浮かんできた。

「あいつ……なにやってんだ」

 天候が悪くなって体育の授業が潰れて……嫌いな数学の授業になった。肝心な体育館も補修工事でしばらく使えないらしい……

 俺の頭に嫌な予感が過ぎった。

 俺は授業を抜け出し、職員室から体育館倉庫の鍵を持ち出して体育館へと駆けていた。

「うさ子!」

 体育館の扉を開けると、ぐったりと倒れるうさ子の姿があった。

「雄太さん……やっぱり……来てくれたんですね……」

 呻くような声で発するものの、表情は笑顔だった。

「どうしてこんなになるまで……助けを呼ばなかったんだ……バカだろこんな……」

「雄太さんは……優しい人です……だから来てくれるって、信じてたんです……」

 俺が抱きかかえると、そのまま糸の切れた人形のようにうさ子は動かなくなった。

「うさ子!?」

 その時、うさ子の身体が光に包まれたかと思うと、制服がうさ子の身体からすり抜け、その裸体が小さいものへと姿を変えていく。

それは小さな小さな白いウサギだった。

「うさ子……」

 うさ子は俺と会った事があると言っていた……それはあのときに会ったことだったんだ。

 子供の頃……雪山で怪我をしたウサギを見つけた……今にも死にそうで、助けずにはいられなかった。

 俺はそのウサギを家に持ち帰り、必死になって看病をしたのを覚えている。

 そしてそのウサギに俺は名前をつけた。メスでウサギだからうさ子……いま思えば笑い転げそうな名前だ。

 そのウサギは元気になって、人間として会いにきて……俺を好きだと言ってくれた……なのに俺は……

「待ってろよ……すぐに元気にしてやるからな」

 うさ子を学らんで包むと、俺は無我夢中で駆けていた。

 外はあの時のように雪が降りしきっていた。途中で、教師の呼び止める声が聞こえたが、俺はそれを無視して走り続けた。



  ――― つづく
 

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